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斎王からの伝言[創作]13

13 高砂

 2015年7月に福島では、39度という最高気温を記録した。9月に入ると関東から東北で豪雨が降り、茨城で鬼怒川が決壊、山形の最上小国川や宮城の渋井川等が氾濫して被害が広がった。

 ミキは、師匠より演目の一つを任されるまでに成長しハルの笛の音と仕舞いの息がピッタリだと評判になっていた。稽古に付き合って貰う頻度が群を抜いて多かったからだ。

 ミキは、ハルを意識してはいたが仕事仲間として節度を保ちながら接するよう努めていた。彼に妻や子供、彼女がいるのかも分からなかった。

 以前、ハルに練習中こんな事を言われた。

ハル「高砂は魔を祓い天下泰平を祝福する舞なので無心にならないととは思うのですが、なかなかうまくいきません。近々ミキさんに教えて貰った瞑想場に行ってこようかと考えているんです。」

 能は厄いを鎮める神事として舞わられてきた。自然災害や疫病などを死者の祟りと考え、恨み辛みで亡くなった死者達を神社仏閣で能を奉納することで鎮めようとしたのだ。

 能楽の正式な上演形式は五番立で演目の順番が決められている。最初に天下泰平、五穀豊穣を願う『翁』で、最後は『鬼』を退治する。ミキは能楽自体を神聖な儀式ととらえ、荒ぶるエネルギーに対して謝罪し赦しを求める人間の謙虚な祈りの行為だと感じていた。

 【斎王も同じように大きな力に対して頭を垂れて祈りを捧げ天皇家のために謝罪する存在だったのでは。それにしてもたえず謙虚なエネルギーを保ち続けるって至難の業だ。

 人は欲望があってこそ希望が持てて行動することが出来るもの。自分を認めて貰いたい、褒められたい、大切に扱われたい…愛されたい、楽をしたい、得をしたい、上に立ちたい、生きたい。その様ざな防衛本能的な感情の土台が間違えていたとしたら、どう人は希望を創り出せばよいのだろう?
 生理学的には脳内ホルモンのドーパミン、 ノルアドレナリン、 アドレナリン、 セロトニン、 オキシトシン、メラトニン、 アセチルコリン、 エンドロフィンなどを求めそのホルモンが出る為に人間は行動する節がある。ではどんな状態になればいいのかだ。瞑想状態の脳波なのだろうか…。
 西洋医療は病気が現れて始めて対処するのだから、東洋医療の予防医学がまずは浸透するべきなのだが、資本主義社会が邪魔している。お金を得られないと生活出来ない事がそもそもおかしい事だ。物を溢れさせて購入することで社会を成り立たせると必ず先には破綻が待ち受けている。お金が発生しない行為が必要な事が多いのだから社会集団ではお金の量ではなく質・意識が重要であり、男性社会だけではなく女性社会の感覚が必要になる。どちらかの優劣ではなくバランスなのだ。

 斎王自体がお釈迦様のような希望の象徴となるなら、小さい頃からの教育でその立場を確立させなければならない。でも子供達を型にはめて教育するのも無理があるし、女性限定なんてしたら今のご時世では問題がある…
子供の資質を見極めタイプ別に教育が出来ればいいのに。タイプ別の土台を何で判断するかだが、資質をどのように見極めるか。遺伝子かなぁ。ウーーーンなんか遺伝子だけじゃ足りない気がする。

 魂…魂を計測することは出来ないだろうか。気、オーラ、周波数…脳波、脈、体温、呼吸。森羅万象の周波数を測定すれば、規則性が浮かび上がらないだろうか?現実では無理だとしても創作ならフィクションなら作り上げられる。能のように!】

 最近、ミキは不思議な本を手にしていた。古典だけで新しい社会を創造するには限界がある。何か参考になるものがないかネットで検索していて日本人が提唱している『ヌーソロジー』という概念を見つけた。グノーシスや神話、哲学、宗教、量子力学とあらゆるものが混ざっている。本の内容がとても難解で二の足を踏むがコウさんなら必ず興味を持つに違いないと確信していた。

 世阿弥が能楽を体系化したように斎王制度(女性社会)を現代風に創作の中だけでも再び構築する事が野花菖蒲会の真の目的だ。
シュミレーションとして提示すればイメージが浸透して、その方向性に向かう可能性が出てくる。理想郷が現実となって現れるのだ。自分達が生きていなくてもその先の未来を明るく照らすことが出来る。それが独身で(男性)社会のサポートをせず子孫を残さない自分達の唯一無二な役割だと信じていた。

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