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Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち

レイダ・ライウス長編五作目。東欧の子供映画を観よう!企画。2002年にエストニアの映画批評家が選んだエストニア映画TOP10で8位に輝いた一作。シルヴィア・ランナマー『継母』の映画化作品。1980年代後半、ソ連はペレストロイカの時代に入ったことで、映画監督たちはこぞって同時代のソ連社会の否定的な側面、売春や麻薬中毒や犯罪などを描き始めた。代表的な作品はセルゲイ・ソロヴィヨフ『アッサ』、キラ・ムラトワ『無気力症シンドローム』、パーヴェル・ルンギン『タクシー・ブルース』など。このジャンルを"チェルヌカ"と呼ぶらしい(尤もこの時期のソ連/ロシア映画のみを指すわけではなく、例えば『4ヶ月、3週と2日』みたいな作品も該当するらしい)。そして、本作品もその一つである。舞台となるのは孤児院。外壁はボロボロ、壊れかけの施設が併設されており、草木も生え放題、大人のスタッフなどほぼ見当たらず、子供たちは過密状態で放置される。主人公マリは母親の死後、飲んだくれの父親に追い出される形で孤児院にやって来る。映画はマリが実家に帰ってくるシーンから始まるのだが、父親は迷惑そうに追い返し、新しい恋人にドン引きされている。孤児院に帰りたくないマリは街を彷徨い、不良少年たちの集団に襲われるが、通りかかった不良少女たちの集団に助けられる。後日、孤児院に戻ったマリの前に、襲ってきた男ロビが現れた。彼もまた飲んだくれの母親を持ち、孤児院に入れられたのだ。孤児院には、マリのように親は生きているけれども複雑な事情から一緒に暮らせないという子供たちも多く、性別や年齢によって派閥に分かれて争いつつ共生していた。不良少年ロビも孤児院の中では子供たちに慕われるお調子者であり、実はマリの意中の人タウリの従兄弟だったことも判明する。

マリ、タウリ、ロビ、そしてロビを好きなカトリンの四角関係には常に緊張感がある。お調子者を演じながらも危険な一面が垣間見えるロビ、暗い過去を冷静さで覆い隠すタウリ、感情表現が分からず周囲に当たり散らすカトリン。彼ら彼女らに翻弄されながら、懸命に生きる道を模索するマリもまた、嫌がらせにも押し黙ってしまうなど、カトリンとは別方向に自己表現/感情表現が上手くない。そんな四人が出会う初めての感情としての"愛"が、自分の求めていたものとしての"愛"と重なり合って受容される様には目頭が熱くなる。また、マリやロビは年少の子供たちの世話もしているが、これは二人なりに年少の彼らが自分たちと同じ状態にならないようケアしてあげているようにも見え、そういった小さな行動の端々から、彼ら彼女らの痛みやトラウマを繊細に描いている。

・作品データ

原題:Naerata ometi
上映時間:85分
監督:Leida Laius & Arvo Iho
製作:1985年(エストニア)

・評価:80点

・エストニア映画TOP10 その他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが
ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴"
ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界
ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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