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Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る

ソ連時代から現在まで第一線で活動を続ける職人監督ペーテル・シム(Peeter Simm)の長編二作目。児童作家アイノ・ペルヴィクの同名小説の映画化作品。東欧の子供映画を観よう!企画。アラベラは悪名高い海賊船長タアニエル・ティナの娘。今は木造船スコーピオン号の上で父親と生活をしている。彼女は父親を愛しているが、同時に普通の女の子としての暮らしも夢見ている。ある日、自転車に風船をくくりつけて空を飛んでいた冒険家アドゥを拾った一行は、鍼治療のできる彼を船内に留め置くことにする。アラベラは初めて触れ合う外世界の人間として、この心優しい自称冒険家との会話を通して、善悪とはなにかを学んでいく。しかし、アドゥの言うような机上の善悪のように、人間の善悪は綺麗に白黒分けられているわけではなく、アラベラの心はかき乱されていく。前作『The Ideal Landscape』にも思ったが、シムは手堅い凡庸な映画を作るタイプの職人なんだろう。海賊の物語ということで、海の上の情景や海戦なんかも描かれているわけだが、これが全く画面の上で映えていない。特に甲板でのあれこれは実際に海上で撮っているようなのだが、背景に全く興味なさそうで最早怖かった。しかも、物語の展開が支離滅裂なので、観ていて辛い。原作未読だが、原作のいいとこを繋いだだけと思えるほどめちゃくちゃ(違うならこれは原作のせい)。何が起こってるか分からないので、問答だけ前景化して無駄に説教臭く感じる。子供ナメすぎだろ。全子供は『Colorful Dreams』の方を観ろと言いたい。

・作品データ

原題:Arabella, mereröövli tütar
上映時間:69分
監督:Peeter Simm
製作:1982年(エストニア)

・評価:40点

・エストニア映画TOP10 その他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが
ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴"
ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界
ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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