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Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール

大傑作。エストニアの伝説的映画監督で小説映画化の名手グリゴリ・クロマノフの遺作。2002年にエストニアの映画批評家が選んだエストニア映画TOP10で7位に輝いた一作。ストルガツキー兄弟の同名小説の映画化作品。ある登山家が死んだ場所に建つ"死んだ登山家ホテル"という悪趣味すぎる名前のホテルに通報を受けてやって来た警部グレプスキーが不思議な事件に遭遇する、エストニア初のSF映画。車で雪道を走りながら不気味なホテルに向かうという『シャイニング』すぎるオープニングでは、"何年か前のことだが今でも思い出す、あれが正しかったのか否か未だに判断できない"というナレーションも加わり、続く展開を期待させる。ホテルには変な客しかいなかった。オーナーのアレックスは唯一まともだが、結核持ちで鼻持ちならないヒンクス、お喋りな物理学者のシモネ、謎の実業家モーゼス夫妻などなど。そして、雪崩が起こった夜、客の一人オラフが死体で発見される…超自然的な存在としての"光"を捉えるショット、そしてそれを乱反射させる雪化粧のショットがひたすら美しい。また、鏡を多用した近未来的なホテルの内装も素晴らしく、真っ白な屋外と対比される薄暗い屋内は、"閉じ込める"という意味も内包している。

極めて官僚的/保守的/強権的なグレプスキー警部がソ連そのものを表しているとすれば、ヒンクスを筆頭とするギャング団、シモネを代表とする学者たち、モーゼス夫妻を代表とする異邦人というアンサンブルによって、ホテルはソ連の縮図のようでもある。特にモーゼス夫妻の存在は、グレプスキーと対比されていて、所謂"ロシア"の民族主義が"ロシア"以外の民族を脅威として捉えている証左にもなっている。つまり、本作品はソ連が思想的/民族的な異質さを弾圧していることへの批判を中心に据えているのだ。

・作品データ

原題:Hukkunud Alpinisti' hotell
上映時間:84分
監督:Grigori Kromanov
製作:1979年(エストニア)

・評価:90点

・エストニア映画TOP10 その他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが
ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴"
ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界
ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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