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Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える

子供映画の名手ヘレ・カリス=ムルドマー(Helle Karis-Murdmaa)による長編一作目。東欧の子供映画を観よう!企画。オスカル・ルッツによる童話の映画化作品。当時の子供たちに絶大な人気があったらしく、テレビや映画館などで繰り返し上映され、劇中歌も様々な場所で歌われ、名セリフは誰でも知っているというレベルだったとのこと(ただし批評家受けはあまり良くなかった)。野山でイチゴ狩りをしていたクスティとイティの兄妹が道に迷って魔女に出会い、家の手伝いを強要されるという『ヘンゼルとグレーテル』のような幕開け。兄クスティは家畜の世話を、妹イティは角の生えた魔女のクソガキの世話を押し付けられ、それぞれ家の内外で壮絶なバトルを繰り広げる。魔女は早回しや逆再生、合成などの画像効果を駆使して暴れまわり、小汚い二人の成人息子をしばき回しているが、クソガキには甘いという設定。魔女はクスティが仕事をサボっていると突然現れて折檻し、イティが"(クソガキの)角が折れた…"と呟けば飛んでくるという超自然的な存在として描かれているが、ルッツの原作ではここまで魔術推しではなかったらしい。やがて、魔女一家が金貨の壺を発見して大はしゃぎで家を開けた隙に、兄妹は角が生えてるという理由でバンピーと名付けた魔女のクソガキを連れて村へと戻った。

本作品は一応ミュージカルに区分されており、前半の魔女パートではコーラスが歌う童謡によって場面説明や場面転換を行うという形で歌が登場、後半の村パートでは実際に村の住民が歌って踊って教訓を表現する。どの歌もリズムが良く、歌詞も深く教育的なのが興味深い。命令に従わないバンピーを鞭でシバこうとしたクスティに対して"恐怖より愛の方が大切"と訴える歌は映画の中で繰り返され、平和を訴えている。後半部分は特にこういった主張が前景化し、全体的にわちゃわちゃしているだけという印象を受けるのが残念なところ。個人的にはOP曲が好きなんだが、壮絶字余り歌なのでなんとも歌いにくそう。
こちらの記事によると、本作品の音楽はエストニア最高のプログレッシブグループと呼ばれたカセケが担当しているらしい。納得しかない。

・作品データ

原題:Nukitsamees
上映時間:75分
監督:Helle Karis-Murdmaa
製作:1981年(エストニア)

・評価:60点

・エストニア映画TOP10 その他の作品

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3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
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Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
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