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ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが

ライナル・サルネの初長編作品。主人公アンは15歳。そろそろ継父と母親の子供、つまり異父弟が生まれるという重大な変化に直面している。しかし、アンの母親は神経質で嫉妬深く、まるで邪魔者のように扱ってくる。緊迫した冒頭では、母親が苛立ちを隠さずにソファに座る後ろで、アンが掃除機をかけているのだが、彼女が掃除機のノズルをソファに這わせて母親に向けても一瞥するだけで、お腹の音を聴こうとするアンを押しのけてどこかへ消える。せめてもの救いは義父アンツが優しい人物であることだが、母娘が対立するとなれば母親の方に立つ彼は味方とは言い難く、娘とのスキンシップも多いし、母親の横で可愛い金髪ナースに目を奪われているなど、問題行動も多い。アンは全ての発端となった弟を憎み、悪魔崇拝者のウェブサイトで呪いの言葉を口にする。やがて生まれた弟の心臓に異常が発見され、恐怖に駆られたアンは呪いの言葉を取り消そうと躍起になる。

そんな頃、アンの学校に悪魔崇拝者…か厨二病の同級生マヤが転校してきた。明らかに浮いてる彼女を同級生たちはからかい、除け者にするが、自分自身が家族の中で除け者にされているアンは共感を抱き、悪魔への祈りを取り消すことを理由に近付いていく。それは友人を求めているようでもあり、突如自分の人生から消えた母親を求めるようでもあり、同級生とは思えない甘えた態度で接しているのが中々にグロテスク。マヤを通してウェブサイトの運営者セスと偶然出会い、弟と助けるために…という動機はほとんどアンの新世界探検のついでとなってしまい、母親の気を引く子供のようにマヤの気を引こうと躍起になる。

悪魔崇拝男セスにお姫様抱っこされて、倉庫→自室に転移してたシーンが面白かった。両親が家を空けると同級生たちのパーティ会場になるのはアメリカのティーン映画ぽいが、流石に玄関ドア開けっ放しなのか?というくらい自由往来してるのは笑ってしまった。全体的に行き当たりばったりで、母娘の緊張感はマヤとの関係性に落とし込めていなかったので、後半はずっとボンヤリしていた。

・作品データ

原題:Kuhu põgenevad hinged
上映時間:87分
監督:Rainer Sarnet
製作:2007年(エストニア)

・評価:50点

・ライナル・サルネ その他の作品

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★ ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界

・エストニア映画TOP10 その他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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