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Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人…

Sulev Keedus長編二作目。2002年にエストニアの映画批評家が選んだエストニア映画TOP10で5位に輝いた一作で、独立後の作品では唯一のランクインとなる。題名はウェルギリウス『農耕詩』を指しているが、農業とは全く関係がない。ソ連の戦闘機が夜間射撃の練習に使う無人島に老人が一人で暮らしていた。アフリカで宣教師をしていた老人は、その思い出に囚われながら、昼間は不毛の大地に持ち込んだミツバチや"宣教師"と名付けた白馬の世話をし、夜間は爆撃機の演習結果を伝えて生活をしていた。そこに一人の無口な少年が派遣される。冒頭で『フルメタル・ジャケット』よろしく丸坊主にされた少年のビジュアルは『ストーカー』の娘のそれであり、物静かなポストアポカリプス的世界観やモノクロとカラーによって語り口を分ける手法など、同作に寄せていってる感じもする。物語はほとんどなく、ロケーションやモチーフを多用した複雑すぎる視覚的隠喩を通して、エストニア近現代史を再構築した作品である。例えば、少年が固執する母親の記憶や農村での生活の記憶は島での生活と明白に対比されているし、老人のアフリカでの記憶はソ連のエストニアへの目線と重なるし、老人→少年への目線にも重なる、といった感じに多層的ではあるんだが、部外者には正直全く分からない。映像もタルコフスキーを志向しているが、そこまでショットに拘りがあるわけでもなく、エレメンタル感もない。観念的すぎて、首を捻っていたら終わってしまった。バルタスとかアスカリアンみたいに90年代前半から登場し始めるタルコフスキーの遺児たちといった印象。

・作品データ

原題:Georgica
上映時間:104分
監督:Sulev Keedus
製作:1998年(エストニア)

・評価:60点

・エストニア映画TOP10 その他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが
ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴"
ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界
ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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