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Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ

カリョ・キースク(Kaljo Kiisk)の長編13作目。2002年にエストニアの映画批評家が選んだエストニア映画TOP10で6位に輝いた一作。アウグス・ガイリ(August Gailit)『Toomas Nipernaadi』の映画化作品。詐欺師のように口が上手く、様々な職業を詐称し、物語も創造する聖愚者ニペルナーディの珍道中を彼の目線で映画化したような、荒唐無稽な物語である。冒頭で田舎の砂利道を自転車で走っていたニペルナーディは、"魔女リースが死んだ!"と言って走る青年を発見する。皆が魔女を恐れて近付かない中、ニペルナーディが彼女の葬儀を買って出て、そのまま彼女の家に居着いてしまう。川沿いに暮らすミラという若い女性に恋して彼女を口説き落とし、亡きリースの親戚三兄弟に新規事業を提案し、失敗した彼らに家に火を付けられるが、数秒後には自分のしていたことも相手にされたことも綺麗サッパリ忘れてしまったかのようにケロっと次の行動に移り、終いには謎と不思議な温かさを残して去っていく。それを脈絡なく4回繰り返す。彼は物語の支配者であり世界の支配者でもあり、その証拠として、世界は美しい固定ショットで切り取られ、総監督としてのニペルナーディが誰を画面に入れるかを決めたかのように計算し尽くされ、色彩や光までもが彼の支配下にあるかのように物語と連動しているのだ。そして、物語も荒唐無稽なら編集も荒唐無稽で、物語ることなど最早興味がないかのように、断片を結んで進んでいく。途中からニペルナーディがマーク・デュプラスにしか見えなくなってきて余計に面白かった。マーク・デュプラスなら騙されてもいいかも(別にニペルナーディは騙しているというわけでもなさそうだが)。

・作品データ

原題:Nipernaadi
上映時間:88分
監督:Kaljo Kiisk
製作:1983年(エストニア)

・評価:70点

・エストニア映画TOP10 その他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが
ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴"
ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界
ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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