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katsuo
2021年7月3日 21:49
光 25 朝ごはんを食べ終え部屋に残っていたのは、僕と岡本だけになった。気まずい空気が流れるかと思ったが、岡本がすぐに僕に話を振ってくれた。「田嶋君、ここでの生活にはもう慣れた?」「はい、だいぶん」「そうか、よかった。元気になって何よりやん。木村さんとは最近会ってる?」「最近は、あんまり会ってないです」「そうか、あの人結構、忙しくしてるからなあ」「あの人って、何者なんですか?」「
2021年7月1日 22:55
影 24 久しぶりに心の余裕がある。一人で部屋にいると、心に余裕がないことが多かった。しかし、こんな夜は何かを書き、暇を持て余そうと考えた。引き出しから、ペンと書きかけの手紙を取り出し、久しぶりに中身を書き進めた。 誰が、何が悪い。それを判断するのは一体誰なのでしょうか? 親ですか?総理大臣ですか?法律ですか?それとも社会ですか? 僕には分かりません。この問題に答えがあるかどうかすら。
2021年6月30日 22:20
光 23 朝、起きると体が倦怠感に襲われた。どうしようもないぐらい動きたくない。だが、会社にはいかなくてもいいので無駄に動かなくても良い。そのため、また寝ようとした。しかし、体のダルさが睡眠の邪魔をした。 ここにきてもう何日経ったのだろう、と考えながら天井を眺めていた。天井が音も立てず落ちてくるのではないか、という幻想を引き起こした。この体勢のまま何分経ったのか分からなかったが、眠ることがで
2021年6月29日 22:18
影 23 ごっさんは何日か作業を休んだ。どうしてか分からないが、最近、元気がなさそうであると感じていた。ただ体調が悪いだけなのか、精神的な何かがあるのかは分からなかった。しかし、あれだけ元気だった人間が急に元気がなくなると心配になるものだ。 数日後、ごっさんは何事も無かったように作業場に戻ってきた。休憩中、ごっさんは僕が座っている隣に座ってきた。僕は、何があったかを聞くことはできなかったの
2021年6月28日 22:07
光 22 一人でいると急に吐き気が訪れる。思い出してしまうからだ。あの感触、あの心臓の鼓動、あの叫び声。僕には元から、あのような小さな子に興奮するような要素はあったのだろうか。そのような不安も押し寄せてくるようだった。 後悔しても戻らない時間なのだが、その時間が自分の中で止まり、今に流れ出てくる。なのに、この部屋のものは何も変わらない。 ここは地下であるため、外の状況がわからない。晴なのか
2021年6月25日 21:49
影 22 何日間か雨が降り続き、久しぶりに太陽が雲の隙間から顔を出すようになっていた。これはいいことが起こっていく兆候なのか、と考えることができるぐらいの余裕が生まれてきた。しかし、これといって何か楽しいことがあるという訳でもない。 何か楽しいことがあればこの状況も耐えることができるかもしれないと想像したが、現実的ではないのでやめた。気力と根性で耐えているような僕に、いつがたが来てもおかしく
2021年6月24日 22:09
光 21 ドアをノックする音が聞こえて僕は体を起こした。ヨロヨロする体を持ち上げながらドアのほうへ向かい、開ける。そこには島崎がいた。「ご飯一緒にどう?」島崎は言った。「あ、はい」 昼ごはんはどうすべきなのだろうと考えていたので、助かった。島崎が向かう先について行くと、部屋の並ぶ一番奥の一角に広いスペースがあった。あまり広いとは言えないが、八畳ほどの空間には、大きな冷蔵庫、新しくは無いよ
2021年6月22日 22:04
影 21 天気の悪い朝だった。外では横殴りの雨が降り、雨粒が壁に不規則なリズムで打ち付けている音が聞こえる。台風がきているのではないか、と推測した。最近、それほど外の天気というものを気にしてこなかったため、不思議に思った。また、いつもよりも湿気を感じた。何か不吉な予感さえした。ただの予感であると言い聞かせ作業着に着替え、作業場に向かった。 いつものように作業をしようとしているとごっさんの姿が
2021年6月19日 23:31
光 20 徐々に記憶が蘇ってくる。僕はあの子を殺したのか。いやそんなはずがない。しかし、あの首の感触が手から思い出せてきた。生暖かく、細く、微かに宿していた生命の感触が。 逃げよう。逃げるしか道はない。だがどこに。 僕のいるべき場所はあそこしかなかった。そう、『影栄会』だ。しかし、こんなことをした僕を救ってくれるのだろうか。人を殺した人間をかくまった罪で迷惑をかけるのではないか。そう感じた
2021年6月18日 22:37
影 20 ここの人達は誰か待ってくれている人がいるのだろうか。ただ単純作業を毎日のように行い、機械のように動いている。時に休憩時間に話し、スポーツをするだけである。 なにも変わらない、なにも変化のないこの日常に、変化を与え、折れそうな木を支えてくれる人はいるのだろうか。少なくとも、僕にはいない。恋人という人はこれまでにできなかったように思う。できていたとしても、覚えていない時点でいないのと
2021年6月17日 22:31
光 19 それから僕は外に出なかった。いや、出ることができなかったのが正しいだろう。誰かに見られているのではないだろうか。家を特定されるのではないだろうか。そんな思いが永遠に続いた。吐き気が三十分に一度程度起こる。「田嶋君元気?佐々木君から田嶋君が会社を長く休んでいると聞きました。色々大変なこと多いと思うけど、あまり無理せずに。前の講演よかったと言ってたので、昨日の録音送りますね。ちゃんと許
2021年6月15日 21:37
影 19 作業場のトイレに行くとごっさんが用を足していた。挨拶をしようか迷っていたが、ごっさんは用を足しながら泣いていた。ごっさんは僕の存在に気付き、涙を含んだ笑顔で僕に軽く会釈し、また前を向き直った。「何かありましたか?」「時々、自然に涙が出てくるんです。本当に急に。何かわからないんですよね。おかしいですよね」笑顔を見せながら、ごっさんは言った。「いえ」「すみません」ごっさんはそう
2021年6月14日 21:32
光 18 家に帰っても、あの『影』の主の声が鮮明に聞こえるように、頭の中を反芻した。僕は光ろうとしていたから辛い思いをしたのだろうか。いや、光ることを避け、人からも距離を取り生きてきた。しかし、その心の奥では、将来周りの人間を見返すため、誰よりも光るために生きてきたのかもしれない。 光らなくてもいいと言っていた。確かにそうかもしれない。蛍光灯が光るのには多くの電力と熱量が必要である。しかし、
2021年6月13日 00:05
影 18 ごっさんの描く絵は僕には理解できなかった。黒く塗られた背景の中心に、白い布のようなものが螺旋状に渦巻いている。その白い物体は何かから抜け出すようにも見える一方、もがきながら動いているという印象も受ける。鉛筆で描かれたその絵は、白と黒しかないはずだが躍動感がありありと表されていた。「あまり何も考えずに思うがままに描きました」とごっさんは言っていたが、僕にはそうは思わず、何か内なる