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katsuo
2021年7月12日 21:35
光と影「2435番。面会だ」 名前が呼ばれた。僕に面会?当てがわからず少し混乱した。この刑務所に入り、私的な面会など久しぶりのような気がする。面会室で待っていた。親とは今となっては連絡がなく、面会すら来てくれない。それなりのことをしたので仕方ない。 面会室で俯いて座る。ガラスの向こうの扉が開く音がした。顔を上げると、今日は天候がいいのか、光が扉の隙間から抜けてきた。その隙間から、一人の男が
2021年7月11日 22:37
影 28 朝の光とともに目が覚めた。生きている。生きているべき人間は僕ではないはずだ。首元が痛む。自分の首を絞めつけようとしてみたができなかった。 ごっさんの言葉が頭から離れなかったからだ。 『生きてしっかり償ってください。』 今日は何もしたくない。作業場に行ったところで、ごっさんのように話す人などいない。それに、頑張ったところで何か救われるということもない。また、迷宮に入り、出口が見え
2021年7月10日 21:08
光 27 自分の部屋に帰ろうとすると、談話室から何やら声が聞こえたので行ってみた。そこでは、島崎、桂木、岡本が話していた。僕は、人の輪に入ることは得意では無いので、扉の近くに行き、横耳で聞いていた。「人間って死んだらどうなるんやろうな」島崎が唐突に言った。「天国が地獄に行くんじゃないんですかね。私は確実に地獄ですけどね」岡本が冗談交じりに言った。「無でしょ。無。だって普通に意識なくなって
2021年7月8日 21:54
影 27 ごっさんが自殺した。夜、自分の服を首に巻いて。その知らせを聞いたのは、昼の休憩時間だった。ごっさんは朝から姿が見えないと思っていたが、体調を崩していているのだろうと思っていた。よくよく考えてみたが、最近、体調は悪そうな気はしなかった。しかし、相当心の中で、人には見せない何かがあったのだろう。 ごっさんはどういう気持ちだったのだろう。いや、今どういう気持ちでごっさんはいるのだろう。
2021年7月7日 22:17
光 26 島崎が僕の部屋をノックし、僕を呼んだ。「田嶋君、調子はどう?」「元気です」すこし笑顔で僕は答えた。「それはよかった。木村さんが呼んでるから、部屋に行ってな」 島崎に言われるがまま、木村の部屋に行った。部屋に入ると、傘が橙色で花柄の蛍光灯がぶら下がり、ものは余計なものがなく、その分、部屋の壁一帯に本が並べられていた。図書館の一角を貸し切ったような部屋で、最初には気づかなかっ
2021年7月5日 22:32
影 26 瞼が自然に落ちてくる。この重い瞼を自分の力ではどうすることもできないというもどかしさだけが残る。こういうときには必ず失敗をするものである。案の定、流れてくるものを見逃すというミスを繰り返してしまった。必死に耐えた午前中だったが、お腹が空いてくると不思議と目は冷めてくるものなのだ。 食事前に、無駄な集中力を発揮した。その後、昼休憩に入った。ごっさんの隣に座る。「にっしーさん好きな
2021年7月3日 21:49
光 25 朝ごはんを食べ終え部屋に残っていたのは、僕と岡本だけになった。気まずい空気が流れるかと思ったが、岡本がすぐに僕に話を振ってくれた。「田嶋君、ここでの生活にはもう慣れた?」「はい、だいぶん」「そうか、よかった。元気になって何よりやん。木村さんとは最近会ってる?」「最近は、あんまり会ってないです」「そうか、あの人結構、忙しくしてるからなあ」「あの人って、何者なんですか?」「
2021年7月1日 22:55
影 24 久しぶりに心の余裕がある。一人で部屋にいると、心に余裕がないことが多かった。しかし、こんな夜は何かを書き、暇を持て余そうと考えた。引き出しから、ペンと書きかけの手紙を取り出し、久しぶりに中身を書き進めた。 誰が、何が悪い。それを判断するのは一体誰なのでしょうか? 親ですか?総理大臣ですか?法律ですか?それとも社会ですか? 僕には分かりません。この問題に答えがあるかどうかすら。
2021年6月30日 22:20
光 23 朝、起きると体が倦怠感に襲われた。どうしようもないぐらい動きたくない。だが、会社にはいかなくてもいいので無駄に動かなくても良い。そのため、また寝ようとした。しかし、体のダルさが睡眠の邪魔をした。 ここにきてもう何日経ったのだろう、と考えながら天井を眺めていた。天井が音も立てず落ちてくるのではないか、という幻想を引き起こした。この体勢のまま何分経ったのか分からなかったが、眠ることがで
2021年6月29日 22:18
影 23 ごっさんは何日か作業を休んだ。どうしてか分からないが、最近、元気がなさそうであると感じていた。ただ体調が悪いだけなのか、精神的な何かがあるのかは分からなかった。しかし、あれだけ元気だった人間が急に元気がなくなると心配になるものだ。 数日後、ごっさんは何事も無かったように作業場に戻ってきた。休憩中、ごっさんは僕が座っている隣に座ってきた。僕は、何があったかを聞くことはできなかったの
2021年6月28日 22:07
光 22 一人でいると急に吐き気が訪れる。思い出してしまうからだ。あの感触、あの心臓の鼓動、あの叫び声。僕には元から、あのような小さな子に興奮するような要素はあったのだろうか。そのような不安も押し寄せてくるようだった。 後悔しても戻らない時間なのだが、その時間が自分の中で止まり、今に流れ出てくる。なのに、この部屋のものは何も変わらない。 ここは地下であるため、外の状況がわからない。晴なのか
2021年6月25日 21:49
影 22 何日間か雨が降り続き、久しぶりに太陽が雲の隙間から顔を出すようになっていた。これはいいことが起こっていく兆候なのか、と考えることができるぐらいの余裕が生まれてきた。しかし、これといって何か楽しいことがあるという訳でもない。 何か楽しいことがあればこの状況も耐えることができるかもしれないと想像したが、現実的ではないのでやめた。気力と根性で耐えているような僕に、いつがたが来てもおかしく
2021年6月24日 22:09
光 21 ドアをノックする音が聞こえて僕は体を起こした。ヨロヨロする体を持ち上げながらドアのほうへ向かい、開ける。そこには島崎がいた。「ご飯一緒にどう?」島崎は言った。「あ、はい」 昼ごはんはどうすべきなのだろうと考えていたので、助かった。島崎が向かう先について行くと、部屋の並ぶ一番奥の一角に広いスペースがあった。あまり広いとは言えないが、八畳ほどの空間には、大きな冷蔵庫、新しくは無いよ
2021年6月22日 22:04
影 21 天気の悪い朝だった。外では横殴りの雨が降り、雨粒が壁に不規則なリズムで打ち付けている音が聞こえる。台風がきているのではないか、と推測した。最近、それほど外の天気というものを気にしてこなかったため、不思議に思った。また、いつもよりも湿気を感じた。何か不吉な予感さえした。ただの予感であると言い聞かせ作業着に着替え、作業場に向かった。 いつものように作業をしようとしているとごっさんの姿が