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熊の飼い方 49


  光 26

 島崎が僕の部屋をノックし、僕を呼んだ。
「田嶋君、調子はどう?」
「元気です」すこし笑顔で僕は答えた。
「それはよかった。木村さんが呼んでるから、部屋に行ってな」
 島崎に言われるがまま、木村の部屋に行った。部屋に入ると、傘が橙色で花柄の蛍光灯がぶら下がり、ものは余計なものがなく、その分、部屋の壁一帯に本が並べられていた。図書館の一角を貸し切ったような部屋で、最初には気づかなかったが本が木村の方を向いているようだった。
 木村は、パソコンに向かってキーボードを叩いていた。僕が入ったことに気づくと、椅子を回し僕も方を向いた。
「気持ちはだいぶん落ち着いてきたかな」木村は優しい顔を僕に向け言った。
「はい、まだ落ち着かないことは多いですが」
「そうか。そんなに焦ることはないよ。ゆっくり休んだらいいよ。ここには楽しく遊べるものはないけど」笑いながら木村は言った。
「ありがとうございます」
「こんな怪しい人物がいるところで落ち着けるかって感じだよね。僕がどんなやつか聞いた?」
「あ、はい。影の……」
「それ聞いたんだ。そうそう。ま、自己満足でやってるだけなんだけどね。最近、来てくれる人が増えて僕もビックリしてる」
「僕、本当に救われました」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
木村という男がますます分からなくなったが、悪い人ではないということは事実だと直感で思った。
「メンバーの人とは仲良くできてる?」
「良い方ばっかりでよかったです。僕はここにいて良いのか……」
「そんなそんな。僕は寂しがりやだから、住んでくれる人が増えてとても嬉しいんだよ」
 木村は本当に嬉しそうに僕に笑顔を向けてくれた。こんなに何もない僕に笑顔を見せてくれるだけで少し救われたような気がした。しかし、僕は犯罪者だ。そのことが、ここにいてもいいのか分からない気持ちを増幅させた。
「ここには、光が当たらないから、外に出て気分転換してきても良いよ。出にくいかも知れないけど」
「はい、わかりました」
「話しに来てくれてありがとう。また話してね」
「はい」
 そういって、僕は木村の部屋を後にした。


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