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漆で未来は変えられる

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NPOウルシネクスト理事長の漆とSDGsについてのコラム。公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌に寄稿した全11回の連載
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ウルシの木の活用プロジェクト

ウルシの木の活用プロジェクト

日本で使われている漆の95%以上は中国からの輸入に頼っていますが、重要文化財の修復用などを中心に、国産漆の需要は急増しています。需給バランスがひっ迫する中、各地でウルシの木を植える活動が始まりましたが、一方で育ったウルシの木から漆を採取する漆掻き職人は全国でも30〜40人と少数で高齢化も進んでおり、このままではウルシの木はあっても人手がなく、漆の採取できないという状況が予想されます。

職人の育成

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電気工事と津軽の馬鹿塗り

電気工事と津軽の馬鹿塗り

今年の夏も暑かった!もはやエアコンは快適に暮らすためのものというよりは、命を守るために必須なものとなりました。今年は在宅勤務の広がりや、10万円の定額給付金も後押しになってエアコン需要は例年以上に高まり、取付け業者さん達も大忙しだったようです。

青森県弘前市で電気工事業を営む高橋武敏さんもそのお一人ですが、実は高橋さんは電気工事のお仕事を通じて、漆や伝統工芸で暮らしを豊かにするとてもユニークな取

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日本の木の文化は心のよりどころ

日本の木の文化は心のよりどころ

漆といえば、多くの方はお椀や重箱といった「漆器」をイメージされるのではないかと思いますが、神社やお寺などの建造物にも多くの漆が使われてきました。

去る2020年8月19日、ご縁あって、私が代表を務めますNPO法人ウルシネクストは、有志と共に東京の浅草神社に今年採取した国産漆と漆染め抗菌マスクを奉納し、新型コロナウィルス感染症早期終息祈願祭を行いました。浅草神社は浅草寺の東側に位置し、毎年200万

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コロナ禍から生まれたウルシの新活用

コロナ禍から生まれたウルシの新活用

ウルシノキから漆を採取することを漆掻きといいます。漆掻きの方法は2種類あり、一つは夏〜秋の数ヶ月をかけて漆を採り尽くし、一年限りで伐採してしまう「殺し掻き」、もう一つは夏だけ採取し何年も採り続ける「養生掻き」です。

国産漆の7割を生産する岩手県をはじめとして日本では殺し掻きが主流です。そのため毎年数千本のウルシノキが伐採されていますが、それらは漆掻き職人さんが薪にしたり、オブジェとして使われたり

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無人駅から拡がる漆の里山づくり

無人駅から拡がる漆の里山づくり

緑の野山が広がり清流が流れる自然豊かな岩手県盛岡市郊外の上米内(かみよない)地区。ここでは国産漆の不足を解消すると共に、漆で里山振興と地域を活性化しようと漆の里山プロジェクトが進んでいます。
最近、このプロジェクトの拠点となる施設がオープンし、メディアの注目も集め話題となっています。

この上米内地区には盛岡と宮古を結ぶJR山田線の上米内駅があります。1日の乗客数は60人程度で、平成30年に駅員が

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伝統を次世代につなぐイノベーター

伝統を次世代につなぐイノベーター

新型コロナウィルスの感染拡大によって、社会全体が大きな影響を受けています。この難局を乗り切るために各方面で必死の努力が続けられています。一刻も早く感染拡大が終息し社会活動の回復が望まれますが、依然として先行きは不透明です。

しかしそんな中にあっても支援と社会課題の解決を目指し、新たな事業を立ち上げる人たちもいます。私は漆の振興に取り組んでいますが、伝統的なものづくりにおいても注目のイノベーターが

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天然素材の抗菌作用と持続可能性

天然素材の抗菌作用と持続可能性

新型コロナウィルスの感染拡大が続いています。この原稿を書いている時点では、日本では爆発的な感染は起きていないものの、ヨーロッパや米国では「戦争」という表現が使われるほどの深刻な事態となっています。

中国武漢から始まった感染は今や世界中に広がりました。SDGsには「すべての人に健康と福祉を」というゴールがあります。改めて持続可能な社会に向けて世界が結束して取り組む必要に迫られています。一刻も早い終

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伝統漆器でつくる責任つかう責任に取り組む

伝統漆器でつくる責任つかう責任に取り組む

私たちは例外なく地球の資源を使って生きています。地球の資源には限りがあり、枯渇すれば人間は生きていけません。しかし現在私たちは地球1個が作り出してくれる資源やエネルギーに対して1.5個分を消費しています。今のペースが続けば2030年には地球が2個必要になると言われています。

この問題の解決を目指して、持続可能な開発目標SDGsにおいては12番目のゴール「つくる責任つかう責任」があります。このゴー

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漆器とSDGs的ライフスタイルのすすめ

漆器とSDGs的ライフスタイルのすすめ

2030年までに解決が必要なSDGsで示されている課題の数々は、我々が便利さ快適さ効率化などを追い求め、そのライフスタイルを変化させ元には戻れないことも原因です。

かつて買い物は買い物かごを持っていくのが当たり前でしたが、無料でレジ袋という便利なものが用意されるようになってからは、買い物かごを持たないライフスタイルが当たり前となりました。ペットボトルしかり、いったん当たり前になってしまうと、それ

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海の豊かさと古くて新しい漆の技術

海の豊かさと古くて新しい漆の技術

国連で採択され世界中で取り組みが活発化しているSDGsは持続可能な社会に向けた17のゴール(目標)を定めたもので、その範囲は貧困や健康、経済成長、気候変動など多岐に渡っています。今回は14番目のゴールである「海の豊かさを守ろう」から漆を捉えてみます。

地球は7割以上が海です。地球上には陸上に100万種類、海には1,000万種類の生物がいます。私たちは食糧をはじめとして海から多大な恩恵を受けている

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