見出し画像

伝統を次世代につなぐイノベーター

新型コロナウィルスの感染拡大によって、社会全体が大きな影響を受けています。この難局を乗り切るために各方面で必死の努力が続けられています。一刻も早く感染拡大が終息し社会活動の回復が望まれますが、依然として先行きは不透明です。

しかしそんな中にあっても支援と社会課題の解決を目指し、新たな事業を立ち上げる人たちもいます。私は漆の振興に取り組んでいますが、伝統的なものづくりにおいても注目のイノベーターがおります。

(株)和える代表取締役の矢島里佳さんは、職人と伝統の魅力に惹かれ、日本の伝統を次世代につなぎたいという想いで、慶應大学在学中の2011年に同社を立ち上げました。日本全国の職人さんと共に、漆器をはじめとした食器やタオル、おもちゃ、子どもの頃から使える "0歳からの伝統ブランドaeru”を生み出し、東京と京都の直営店や百貨店などで販売する他、伝統や先人の智慧を次世代につなごうと様々な事業を展開されています。政府、自治体の委員も務め、メディア出演や講演など多方面で活躍されています。


新型コロナウィルスは矢島さんの事業にも影響を与えています。直営店の一時閉店に加え、展示会や春の陶器市、販売会などが次々に中止となったことで、一緒に仕事をしている全国各地の職人さんが困難に陥っています。これまで受け継がれてきた伝統が消えてしまう、そんな危機感の中で彼女が打った手が4月から始められた自然エネルギー電力事業「aeru電気」です。

自然電力

2016年から電力自由化によって自由に電力会社を選んで契約できるようになりましたが、矢島さんは自然エネルギー由来のaeru電気に切り替えるだけで、日本の伝統産業の職人さんを応援することができる仕組みを作りました。毎月の電力料金の1%が里山で原材料を育てる取り組みや、子どもたちの伝統文化教育といった伝統産業を応援する取り組みに還元されます。

伝統産業品はそれぞれの地域の自然環境や素材を活用しながら作られていることから、きちんと自然を守っていかなければ伝統のものづくりが継承できない。太陽光・風力・小水力による環境への負荷が少ない自然エネルギーを広めることで、自然を守りながら日本の伝統を次世代につなげたい。こんな思いがaeru電気には込められています。

電力自由化という新しい仕組みを活かして、困っている人の支援と同時に伝統文化の継承、環境保護といった社会課題の解決につながる事業を驚くような早さで立ち上げる。矢島さんの柔軟で斬新な発想や行動力には目を見張るものがあります。
日本の伝統を次世代につなぎたいという強い志に心動かされると共に、困難な中にあっても明るい未来を信じて前に進むことの大切さを教えていただいた思いです。

今後、社会は変容します。新しい社会が誰もが幸せに生きられる社会となるよう、矢島さんのような志と実践力を兼ね備えた人たちが活躍されることを願っています。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年7月号に寄稿


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?