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コロナ禍から生まれたウルシの新活用

ウルシノキから漆を採取することを漆掻きといいます。漆掻きの方法は2種類あり、一つは夏〜秋の数ヶ月をかけて漆を採り尽くし、一年限りで伐採してしまう「殺し掻き」、もう一つは夏だけ採取し何年も採り続ける「養生掻き」です。

国産漆の7割を生産する岩手県をはじめとして日本では殺し掻きが主流です。そのため毎年数千本のウルシノキが伐採されていますが、それらは漆掻き職人さんが薪にしたり、オブジェとして使われたりする程度で極めて限定的な利用に留まっています。

ウルシノキの幹の中心部はとてもきれいな黄色をしているので材料としても魅力的だと思うのですが、漆=かぶれというネガティブな面があることから製材を引き受けてくれる業者を見つけるのは非常に難しく、木製品の材料など「木材」としてはほとんど活用も流通もされていないのが現状です。

私たちNPOウルシネクストでは、資源の有効活用やウルシノキの付加価値向上の観点から、企業や団体などとアライアンスを組んで伐採されたウルシノキの活用に取り組んでいます。今回はその中の一つの実践事例をご紹介します。

新型コロナウィルス感染拡大の今、マスクの着用が日常的になり、洗って何度も支える布マスクもさまざまなものが販売されています。この7月、岩手県盛岡市の株式会社浄法寺漆産業(松沢卓生社長)は、ウルシノキのチップで染めた布マスクを開発し、ネットショップや店舗などで販売を始めました。

このマスクの特徴は高い抗菌性です。漆器の塗膜には抗菌性があることは以前から確認されていましたが、漆染めの抗菌性についても検査機関に試験を依頼したところその高い抗菌性が証明されました。さらに繰り返し洗濯しても抗菌力が落ちず逆に高まることもわかりました。また漆はかぶれが心配されるところですが、このマスクは十分に乾燥させたウルシノキの芯材を使用しているため、かぶれの心配はありません。

漆染めの材料であるウルシノキのチップは、前述のとおり加工してくれる業者が見つからなかったため、前月号にてご紹介した漆の里山づくりに取り組む一般社団法人次世代漆協会が岩手県の漆掻き職人さんからウルシノキの原木を譲り受け、自前で破砕し製造しました。このウルシノキチップは草木染めの材料として同協会を通じて一般にも販売が開始されています。

ウルシチップ

樹液を採るだけのものと捉えられてきたウルシノキは、チップにすることにより繊維に抗菌性を持たせられる染色素材という新しい価値を与えられました。私たちは引き続き草木染めの材料としてチップを広めると共に、木製品の材料としての展開にも取り組み、ウルシノキの有効活用の幅を広げていきたいと考えています。

依然としてコロナ禍が続いていますが、漆染めマスクはこうした状況の中で生まれ、漆染めの抗菌性も確認されました。「必要は発明の母」「禍を転じて福と為す」とも言います。厳しい状況を世の中をもっとよくする機会と捉え、前に進んでいきたいものです。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年9月号に寄稿



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