見出し画像

漆器とSDGs的ライフスタイルのすすめ

2030年までに解決が必要なSDGsで示されている課題の数々は、我々が便利さ快適さ効率化などを追い求め、そのライフスタイルを変化させ元には戻れないことも原因です。

かつて買い物は買い物かごを持っていくのが当たり前でしたが、無料でレジ袋という便利なものが用意されるようになってからは、買い物かごを持たないライフスタイルが当たり前となりました。ペットボトルしかり、いったん当たり前になってしまうと、それがさまざまな問題を引き起こしていると分かっていても、簡単に元に戻れないことはご承知のとおりです。

SDGsを達成して持続可能な社会の実現には国や行政、企業だけではなく、我々ひとりひとりがこれまでのライフスタイルを持続可能型に転換することが求められています。ではどうすれば転換できるのでしょうか?難しい課題ですが、私は漆の振興に携わる身として漆器を積極的に使うことを提案したいと思います。

漆器は木材と漆という自然素材で作られています。元は樹木ですから成長過程でCO2を吸収し、化学素材と違ってCO2排出の問題とは無縁であり、焼却しても有毒ガスは発生せず海に流れ込んでも分解されます。木材や漆のような再生可能な素材を上手に活用することは、持続可能な社会に直結します。

漆器は使い続けても合成素材のように汚れてみすぼらしくなるのではなく、使うほどに味わいが増して美しく魅力的に変化していきます。傷や汚れは修理や塗り直しによって再生できます。ゴミを減らすには捨てないこと。永く使うこと。漆器はゴミの削減、資源の有効活用にもつながります。

またSDGsにおいては、持続可能なまちづくりや文化の継承といった課題もあります。漆器は古くから日本各地で生産され、各地域の伝統や技術が集約されたものづくり文化です。各地の漆器産業が持続することはその地域と文化が守られることにつながります。

さらに次の時代を担う子供たちの教育や健康もSDGsの重要課題です。ジャンクフードに偏るなど子供たちの食の崩壊が問題となる中で、食育の重要性が高まっています。健全な食生活には食材や栄養バランスなどにとどまらず、食器や食事の仕方、後片付けなども重要です。器や皿、箸やスプーンなどをプラスチックのものから漆器に変えてみたり、コンビニの惣菜であっても使い捨て容器のままではなく、きちんと器に盛ってみたりすることは食事の質を変え、食育につながります。食後に自分の食器を洗うことなどを通じて物を大切にする心を育めます。

自然素材の漆器には化学合成品と比べて不便さはある一方で、環境問題や子供の教育、まちづくりや私たちの生活を豊かにしてくれるなどの面もあります。便利さや快適さ効率化と持続可能性とのバランスをどのようにとって新しい豊かなライフスタイルを築いていくのか。一つのきっかけとして改めて漆など自然素材に目を向けてはいかがでしょうか。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年3月号に寄稿


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?