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伝統漆器でつくる責任つかう責任に取り組む

私たちは例外なく地球の資源を使って生きています。地球の資源には限りがあり、枯渇すれば人間は生きていけません。しかし現在私たちは地球1個が作り出してくれる資源やエネルギーに対して1.5個分を消費しています。今のペースが続けば2030年には地球が2個必要になると言われています。

この問題の解決を目指して、持続可能な開発目標SDGsにおいては12番目のゴール「つくる責任つかう責任」があります。このゴールは、ものを作る側に対しては持続可能な方法で生産することを、使う側に対しては責任ある消費を求めています。長年続いてきた大量生産、大量消費から脱して持続可能な生産と消費に転換するために、作る側使う側双方に対応を求めているのです。

需要以上の生産を必要とする大量生産、大量消費。それを前提とした社会の仕組みと私たちのライフスタイルが、資源の無駄遣いにつながっています。我々の生活は便利で楽なものになりましたが、こうした仕組みでは社会そのものが持続できないということが明らかになっています。

漆器においても現在の漆器の多くはプラスチック素地に化学塗装という大量生産された合成漆器ですが、会津漆器という伝統的な漆器づくりで「つくる責任つかう責任」に取り組まれている方がおります。

漆とロック株式会社の貝沼航さんは十月十日(とつきとおか)というユニークなシステムを取り入れています。十月十日の注文受付は年に1度3ヶ月だけ、数量は300組限定です。注文品が手元に届くまで春から秋まで300日以上待つことになりますが、その間にメールや葉書で漆器が作られる様子が伝えられます。木と漆という自然素材を使って手作りされる漆器は大量生産できませんが、こうした仕組みによって、比較的手の出やすい価格で提供されています。


年間300組の受注生産は無理なく材料を確保し、作り手への負担を減らし、品質を保つことができます。さらに漆器づくりという日本の伝統的なものづくりを支えることにもつながっています。十月十日は多すぎず少なすぎない「中量生産」による持続可能なものづくりへの挑戦なのです。

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一方の購入者に対しては、待っていただく間に情報の提供や産地のツアーを企画するなどして、木や漆といった自然素材、漆器づくりと季節のサイクルなど、自然と調和したものづくりへの理解を深めてもらい、エシカルなライフスタイルを提案しています。

十月十日は作る側と使う側の両方の側から「つくる責任つかう責任」に取り組んでいる好事例です。

資源やエネルギーを無駄に使い、未来の分を食いつぶしている状況を解決しなくては人類の未来はありません。今こそ自然と調和して生きてきた日本人ならではのもったいない精神や、木や漆などの再生可能な資源を活かす知恵の出番です。十月十日のような新しい仕組みが次々と出てくることを期待したいと思います。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年4月号に寄稿


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