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日本の木の文化は心のよりどころ

漆といえば、多くの方はお椀や重箱といった「漆器」をイメージされるのではないかと思いますが、神社やお寺などの建造物にも多くの漆が使われてきました。

去る2020年8月19日、ご縁あって、私が代表を務めますNPO法人ウルシネクストは、有志と共に東京の浅草神社に今年採取した国産漆と漆染め抗菌マスクを奉納し、新型コロナウィルス感染症早期終息祈願祭を行いました。浅草神社は浅草寺の東側に位置し、毎年200万人もの人を集める三社祭で有名ですが、その社殿は総漆塗りによる権現造り風の木造建築物です。約400年前に徳川家光が寄進し、江戸の大火や関東大震災そして東京大空襲の被災も免れ、現在では国の重要文化財に指定されています。

浅草神社奉納漆

この浅草神社をはじめとして、宇佐神宮、宗像大社、鹿島神宮、霧島神宮等々、全国には漆が使われている神社が多々ありますが、それらは規模や頻度の差こそあれ、劣化した漆を塗り直すなどの継続した保存修理によって維持されています。

2015年、文化庁は国庫補助金を用いて実施する国宝・重文建造物の保存修理において、使用する漆は原則として国産漆とすることを通知しました。当時の下村文科大臣は「漆の英語名は『japan』であり、日本の文化を象徴する資材」として、この決定の意義を強調しています。日本の文化財を外国産に頼らず国産の資材で守り維持することは当然のことですが、これをきっかけとして、それまで余り気味だった国産漆は一転して引く手数多となり、入手はとても困難になりました。こうしたことから現在、保存修理を先延ばしせざるを得ない国宝・重文もあり、修復作業の遅れによって劣化の進行を心配する声も聞かれます。

浅草神社を取り巻く状況も同様で、「国産漆が大変減少している状況で、なかなか手に入らないのが現状。なんとか国産漆を確保して5年後ぐらいには修復をしたい。」としています。

森林に恵まれた日本。そこで培われてきた日本文化は「木」の文化です。ありとあらゆるものに「木」が関係していると言っても過言ではなく、その文化を守っていくためには「木」が必要です。しかし現状はまさに漆の状況が物語っているように「木」の衰退が日本の文化の存続を危うくしています。

神社のように、私たちの周りには心のよりどころとなって、知らず知らずのうちに私たちを支えてくれている文化がたくさんあります。文化を守ることは私たちの心の平安につながるように思います。コロナ禍の厳しい状況だからこそ、文化を守る、そのためにも「木」を大切に育んでいく、という認識をより一層広めていかなくてはと思いました。

今回の祈願祭をきっかけに、浅草神社土師宮司からは「我が国の守るべき漆文化を次代に継承するべく共に活動を展開し、国産漆の樹木の育成に繋げる機会にしたい。境内にも漆を植えたいものです。」とおっしゃっていただきました。漆の輪が少しずつ広がっています。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年10月号に寄稿


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