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ウルシの木の活用プロジェクト

日本で使われている漆の95%以上は中国からの輸入に頼っていますが、重要文化財の修復用などを中心に、国産漆の需要は急増しています。需給バランスがひっ迫する中、各地でウルシの木を植える活動が始まりましたが、一方で育ったウルシの木から漆を採取する漆掻き職人は全国でも30〜40人と少数で高齢化も進んでおり、このままではウルシの木はあっても人手がなく、漆の採取できないという状況が予想されます。

職人の育成も始まっていますが、漆掻きの仕事だけで生計を立てることが難しいという経済的課題が担い手不足の根底にあります。

こうした状況の中で、漆器の販売や漆の講座・教室などを運営するFEEL J株式会社(加藤千晶代表 )が、「ウルシの木の活用プロジェクト」を始動しました。多くの場合、ウルシの木は樹液を採取した後は新たに芽を出す蘖(ひこばえ)の成長を促すために伐採されますが、その後はほとんど活用されていません。当プロジェクトは、この伐採されたウルシの木の活用に目を向けた取り組みです。


加藤さんによると、プロジェクト立ち上げのきっかけは茨城県奥久慈郡の漆掻き職人の方から、伐採後のウルシの木をもっと活用できれば漆生産に関わる人も増えるのではないか、と相談されたことでした。

そこで未活用のウルシの木を収益化して漆掻きや植栽に従事する方たちの収入源をサポートすること、また、異業種と積極的に協働することで漆や産地への関心人口を増やすことを目指してプロジェクトがスタート。

まずは産学協働の取り組みとして、拓殖大学および産業能率大学の学生たちと、ウルシの木の特性把握、商品企画やマーケティングが実施されています。

産業能率大学での授業の様子

実はウルシの木の商品化には多くの関門があります。現状、ウルシは原木数が少なく、約15年と若くて細いため、ほとんど流通していません。また、漆でかぶれる可能性があるため、通常の製材業者は取り扱いません。それでも、淡い黄色で軽く抗菌作用もある木材は魅力的です。加藤さんの指導の元で、学生たちは自由な発想でアイデアを出し合い取り組んでいます。

10月には我々NPOウルシネクストも加わり、国内最大の漆産地である岩手の企業・団体と2大学とのオンラインミーティングが開催されました。普段はあまり接点のない両者ですが、学生たちのプレゼンテーションや漆をとりまく現状、取り組みなど情報交換を行い、お互いに気づきと良い刺激の機会になりました。また岩手県内でプロジェクトの活動や学生の試作品などを展示する場を設けることも決まりました。ウルシの木の活用プロジェクトはこの他にも多様な分野の方々の関心を集め、来年に向けての商品開発も進行中だそうです。

伐採された木に新たな価値を見出そうというこのプロジェクトは、日本の漆産業の経済的規模の拡大と活性化を促し、SDGsの達成にも貢献する取り組みです。大いに期待し注目していきたいと思います。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年12月号に寄稿


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