見出し画像

天然素材の抗菌作用と持続可能性

新型コロナウィルスの感染拡大が続いています。この原稿を書いている時点では、日本では爆発的な感染は起きていないものの、ヨーロッパや米国では「戦争」という表現が使われるほどの深刻な事態となっています。

中国武漢から始まった感染は今や世界中に広がりました。SDGsには「すべての人に健康と福祉を」というゴールがあります。改めて持続可能な社会に向けて世界が結束して取り組む必要に迫られています。一刻も早い終息を祈るばかりです。

ところで、日本人は世界でも無類のきれい好きですが、そうした国民性もあってか、私たちの身の回りには殺菌、除菌、抗菌といった細菌から身を守ることに対応した商品が数多くあります。食器洗剤やハンドソープからエスカレーターの手すりまで、さまざまなものが細菌に対応しています。

エスカレーター抗菌

実は天然の漆には高い抗菌作用があります。

昔から重箱など漆塗りの器に入れた料理は他の器に比べて腐りにくいことや、漆を塗った花器の水は腐りにくく生けた花は長く持つことなどが知られていました。今では漆の抗菌作用については、福井、京都、石川、岩手といった漆に関わる産地の試験場などで検証実験が行われ、その効果は科学的に証明されています。

MRSA、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオに対する実験では、細菌は4時間後に半減し24時間後には0になる。漆を塗ってから1ヶ月後と1年後に効果に差はなく使い続けても抗菌効果は失われない。中国産、国産、また塗り方による抗菌効果の差はない、といったことが分かっています。

こうした科学的な検証によって優れた効果が明らかになり、一部の地域では漆器を学校、病院、介護といった場で使うことを始めていますが、とても理にかなった良い取り組みだと思います。子供や高齢者、身体の弱い方にとって、高い抗菌効果がありながら、環境ホルモン、アレルギー、化学物質過敏症などの心配がない本物の漆器は、安全安心な極めて優れたものです。このような面からも漆器の利用がもっと広がってほしいと思います。

私は漆を建築に活かしたいものだと思っています。高価な漆を大量に使うことになるので簡単ではありませんが、学校や病院、介護施設を化学物質ではなく天然の総漆塗りにしたら、素晴らしい効果が現れるのではないかと思うからです。

今回のコロナウィルス禍でこれまで以上にウィルスや細菌に対しては関心、ニーズが高くなるでしょう。持続可能な社会に向けてSDGsの達成が求められる中で、こうしたニーズに応えていくには、化学素材だけではなく天然素材を活かしていくことも必要ではないかと思います。

漆以外にもクスノキ、ヒノキ、シソ、ドクダミ、各種ハーブ、竹等々、天然素材で抗菌作用のあるものが知られています。持続可能性に配慮しながら誰もが健康に生きられる社会のために、再生可能な天然素材の活用や研究が進むことを期待したいと思います。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年5月号に寄稿


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?