見出し画像

電気工事と津軽の馬鹿塗り

今年の夏も暑かった!もはやエアコンは快適に暮らすためのものというよりは、命を守るために必須なものとなりました。今年は在宅勤務の広がりや、10万円の定額給付金も後押しになってエアコン需要は例年以上に高まり、取付け業者さん達も大忙しだったようです。

青森県弘前市で電気工事業を営む高橋武敏さんもそのお一人ですが、実は高橋さんは電気工事のお仕事を通じて、漆や伝統工芸で暮らしを豊かにするとてもユニークな取り組みをしています。

弘前市といえば津軽塗が有名です。色漆を何重にも塗り重ね、平滑に研ぎ出して模様を表す技法「研ぎ出し変わり塗り」により生み出される複雑で美しい模様が特徴です。そして津軽塗りはひたすら漆を塗る・研ぐを繰り返し、約2ヶ月間40以上の工程を経るため、その馬鹿丁寧さ・丈夫さから「津軽の馬鹿塗り」とも呼ばれるほどです。

高橋さんは電気工事のお仕事の中で常々あることが気になっていました。それはどの部屋の壁にも取りつけられている電気のスイッチコンセントプレートでした。形も色も同じで何ら面白味のないプラスチック製のプレートが、和室にも洋室にも当たり前のように取付けられていることに疑問を感じたそうです。

これってなんとかできないものか?そう思った高橋さんが声をかけたのが津軽塗の職人さんでした。津軽塗の技を活かせば無味乾燥なプレートを素敵なインテリアに変えることができるのではないか、そう考えて津軽塗でプレートを作り始めたのです。

津軽塗スイッチコンセントプレートは赤、黒、青、緑、ピンクなど実にカラフルです。そして技法も唐塗(からぬり)七々子塗(ななこぬり)とバリエーションがあり、色・模様とも好みや部屋の雰囲気に合わせて選ぶことができます。この津軽塗のプレートは地元の新築住宅を中心にとても好評で、これまでに300軒近いお宅で使われているそうです。津軽塗が地元の人たちにとって馴染み深いものであると同時に、それが地域の誇りとして津軽の人たちに愛されていたことも人気の背景にあるようです。

津軽塗プレートを取り付ける高橋さん

さらに高橋さんは電気工事という本業を生かし、昨年から津軽塗で仕上げたペンダントライトや壁の間接照明、シェードなど、照明器具への展開もスタートさせました。東京にショールームを開設し台湾の展示会にも出展するなど、電気との組み合わせで津軽塗の魅力を多くの人に知っていただこう、楽しんでいただこうと精力的に取り組んでいます。

伝統工芸とは全く関係のなかった高橋さんですが、その思いやアイデアを伝統の技をもった職人さんが受け止め協力してくれたことで、津軽塗は新しい展開を見せ始めています。異業種と伝統の技が見事に合わさって、伝統工芸に新しい価値が生まれ、そして活躍の場が大きく広がっている好事例です。こうしたコラボレーションが次々に立ち上がり、伝統が守られ受け継がれ、そして発展していくことを期待したいと思います。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年11月号に寄稿


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?