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KIGO
2021年4月30日 23:56
人に愛されたいと願いながら、同時に、人が見出した期待に猜疑を抱いている。そして囲まれた柵の抜け穴を求めて、誰も私を知らない世界へ行きたいと願っている。二月尽から、早二か月。抱える二律背反は今や恐怖を伴って、他者と自己の狭間を彷徨っていた。そんな私は四月人(じん)。迷える牡羊座の生まれである。四月尽(しがつじん)******
2021年4月20日 22:03
薄目を開けば、カーテンの向こうはこちらよりも明るかった。黒髪がはらりとシーツに散らばって、少し覗く耳が美味しそうだと思う。雨の音がした。光る首筋に口付けを落とす。柔らかいとこを見つけて種を蒔くように、身体中にキスの雨が降る。もう一度、そっと後ろから寄り添った。温かい慈雨に草花が芽吹く。表面にはさわさわと葉が生い茂る。しっとりと根を張って。こんな日は、ベットに縫い
2021年4月14日 20:24
春の、日暮れて間もない頃。有名な中国の詩人、蘇軾(そしょく)の「春夜詩」に「春宵一刻値千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん)」という一節がある。春の宵には、ほんの僅かな時間でも千金の価値があるという。いつも夜に帰っていく彼。相手がいるのは知っていたのに、私を好いてくれているのは伝わって。私と一緒に来てくれる?と聞いたとして、選ばれなければ、それは悲しくて、しかし私が選ばれて
2021年4月13日 23:12
菜の花畠に入日薄れ見渡す山の端霞深し春風そよ吹く空を見れば夕月かかりて匂い淡し里わの灯影も森の色も田中の小道を辿る人も蛙の鳴く音も鐘の音もさながら霞めるおぼろ月夜「朧月夜」「朧月」と言えば、この曲を思い出す。初めて聞いてから、ずっと好きだったこの曲。口ずさめば、なんだがその場にいるような。遥か昔の、遺伝子に括りついた記憶を見るようで。「源氏物語」にも出てくる「朧月
2021年4月2日 22:20
いちめんのなのはなちへいせんへつづくめをうばうきんいろん、ときみのこえにのびるみぎてをとるなびくはなのあいまのはらをかきわけてはにかむきみとぼくなんでもないじかん はるひがあたたかい かれといろどるみち きゅうっとたしかめ つながったたいおん このまんまふたりの ときがとま
2021年3月31日 23:09
素足に感じる青草の感触が、魂を揺さぶる。土が薫り立つ。新緑に染まる虹彩、葉擦れの音に包まれる。青き踏む。足裏で繋がった、この星に早送りで生きる私たちへ。大きく息を吸う。全身で、春を味わう。踏青(とうせい)*******春の野山で青草を踏む「踏青」は、「野遊び」や「摘草」つながる、中国の古い信仰行事のひとつだそうです。下記ウェブサイトで紹介されているHA
2021年3月29日 23:55
雪の果(はて)。実るは華やかな真白のレース編み。銘々の結晶が身を寄せあって手を伸ばしてはゆらゆら揺れる。冬は終わりと雪が凪ぎ、春がふわりと雪柳。枝垂れ白波、狂咲きランウェイ。遥か彼方にこれが最後と雪が舞う。最果てにて、生まれ変わるのなら。雪の果(ゆきのはて)
2021年3月27日 23:37
春夕焼(はるゆやけ)。季語だからか、「ゆうやけ」ではなく「ゆやけ」と呼ぶ。はるゆやけ。茜色、鴇色、桃色、うすぼんやりと滲む空。とぷん。ぷくりと小さな泡を立ててカクテルの海に包まれる。リュックの中でぶつかったドロップで色付く空を瞳でなぞる。足を一歩、ちょっと遠くに踏み出せば軽やかに音が飛んだ。春夕焼(はるゆやけ)******お散歩してきたよ。……あと、毎日
2021年3月16日 23:50
苔むした巌湯の花ひらひら温泉旅館。淡雪が、溶ける音とひとしずく。鈍色の街とシャボン玉。シャンパンの海でダンスする。泡雪が、解ける音とひとしずく。核融合炉に描かれた北斎の浮世絵に波飛沫。沫雪が、融ける音とひとしずく。白んだ空に。アワユキガ トケルオトト ヒトシズク。淡雪(あわゆき)******内容は創作ですが、写真は下山芸術の森発電所美術館 栗林隆展より。
2021年3月11日 22:44
3月11日。あの日から今日で10年が経った。どのような追悼の場が欲しいかという問いに住民は、ただただ祈りの空間を求めた。大きな大きな水盤には、水がなみなみと張られている。海と共に生きているのだ。目の前のさざ波を眺めながらそんなことを考えていた。いつまでも忘れない。ようやく凪いだ心の水面に零れ落ちたひとしずくから波紋が静かに、閑かに広がっていった。春の水(はるのみず)
2021年3月9日 23:31
年季の入った窓桟の柄が好き。古いガラスの気泡と揺らぎが好き。桜の花びらで繕われた障子が好き。建て付けが悪くて上手く開かないのに、隙間はあって虫も風も通り抜けるから。目貼剥ぐ。馴染みの缶かんの封を切るように。冬の暗闇に慣れた私に、あなたは少し眩しすぎるかな。北窓開く。とっておきを頬張ろう。ちょっとずつ。大切に。北窓開く(きたまどひらく)
2021年3月8日 20:55
強い日差しに熱せられ、融けるようなアスファルトに立ち昇るのとはまた違った、春の麗らかな陽炎。蜻蛉とも呼ぶように、その響きはどこが儚く、仄かに命が薫る。陽光に誘われてひとり出てきた公園では、まだ花も疎らな枝垂れ桜がふらふらと風に遊んでいた。春は出会いの季節でありながら、反面、別れの季節でもある。あの日、下りた踏切のトラバーが歪んで見えたのは瞳の中の海が揺蕩っていたせいかもしれな
2021年2月28日 20:49
誰かに見つけて欲しいと願いながら、同時に、人に理解されないことを求めている。そして深海の底でひっそりと、創造力という酸素が尽きる瞬間に少し怯えている。辺りは静かで、僅かな感情の揺らぎが心地よい。好きな色の泡(あぶく)だけを喰らって生きる。いつも些か手札が足りない、仲間外れの如月(きさらぎ)のように。その二月も今日で終わりを迎えた。いかなる場所でも、春は等しく輝いている。二
2021年2月25日 22:28
春めく。庭の紅梅が見事に咲いた。そよめく。青空に靡く若葉が美しい。蠢く。芽吹く地面に少し浮き足立つ。トキメク。期待に高鳴る胸の鼓動。どよめく。透ける光のベールがあがる。思わず息を呑むほど。艶めく。雫のついた菜の花色のアイシャドウ。さんざめく。弾ける笑顔と花びらの驟雨。煌めく。陽光に映える結婚指輪。色めく。お互い"化粧"は、ばっちりね。目眩く(めくるめく)、今や春