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季語哀楽

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季語をテーマにした投稿まとめ。 365日が目標。
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#詩

四月尽

四月尽

人に愛されたいと願いながら、
同時に、人が見出した期待に猜疑を抱いている。
そして囲まれた柵の抜け穴を求めて、
誰も私を知らない世界へ行きたいと願っている。

二月尽から、早二か月。
抱える二律背反は今や恐怖を伴って、
他者と自己の狭間を彷徨っていた。

そんな私は四月人(じん)。
迷える牡羊座の生まれである。

四月尽(しがつじん)

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穀雨

穀雨

薄目を開けば、カーテンの向こうはこちらよりも明るかった。

黒髪がはらりとシーツに散らばって、
少し覗く耳が美味しそうだと思う。

雨の音がした。

光る首筋に口付けを落とす。
柔らかいとこを見つけて種を蒔くように、
身体中にキスの雨が降る。
もう一度、そっと後ろから寄り添った。

温かい慈雨に草花が芽吹く。
表面にはさわさわと葉が生い茂る。

しっとりと根を張って。

こんな日は、
ベットに縫い

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春の宵

春の宵

春の、日暮れて間もない頃。

有名な中国の詩人、蘇軾(そしょく)の「春夜詩」に
「春宵一刻値千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん)」という一節がある。春の宵には、ほんの僅かな時間でも千金の価値があるという。

いつも夜に帰っていく彼。
相手がいるのは知っていたのに、
私を好いてくれているのは伝わって。
私と一緒に来てくれる?と聞いたとして、
選ばれなければ、それは悲しくて、
しかし私が選ばれて

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朧月

菜の花畠に入日薄れ
見渡す山の端霞深し
春風そよ吹く空を見れば
夕月かかりて匂い淡し

里わの灯影も森の色も
田中の小道を辿る人も
蛙の鳴く音も鐘の音も
さながら霞めるおぼろ月夜

「朧月夜」

「朧月」と言えば、この曲を思い出す。
初めて聞いてから、ずっと好きだったこの曲。
口ずさめば、なんだがその場にいるような。
遥か昔の、遺伝子に括りついた記憶を見るようで。

「源氏物語」にも出てくる「朧月

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菜の花

菜の花

いちめんのなのはな
ちへいせんへつづく
めをうばうきんいろ
ん、ときみのこえに
のびるみぎてをとる
なびくはなのあいま
のはらをかきわけて
はにかむきみとぼく
なんでもないじかん

         はるひがあたたかい
         かれといろどるみち
         きゅうっとたしかめ
         つながったたいおん
         このまんまふたりの
         ときがとま

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踏青

踏青

素足に感じる青草の感触が、魂を揺さぶる。

土が薫り立つ。

新緑に染まる虹彩、

葉擦れの音に包まれる。

青き踏む。

足裏で繋がった、
この星に早送りで生きる私たちへ。

大きく息を吸う。

全身で、
春を味わう。

踏青(とうせい)

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春の野山で青草を踏む「踏青」は、「野遊び」や「摘草」つながる、中国の古い信仰行事のひとつだそうです。

下記ウェブサイトで紹介されているHA

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雪の果

雪の果

雪の果(はて)。

実るは華やかな真白のレース編み。
銘々の結晶が身を寄せあって
手を伸ばしてはゆらゆら揺れる。

冬は終わりと雪が凪ぎ、
春がふわりと雪柳。

枝垂れ白波、狂咲きランウェイ。

遥か彼方にこれが最後と雪が舞う。

最果てにて、
生まれ変わるのなら。

雪の果(ゆきのはて)

春夕焼

春夕焼

春夕焼(はるゆやけ)。
季語だからか、「ゆうやけ」ではなく「ゆやけ」と呼ぶ。
はるゆやけ。
茜色、鴇色、桃色、うすぼんやりと滲む空。

とぷん。

ぷくりと小さな泡を立てて
カクテルの海に包まれる。

リュックの中でぶつかった
ドロップで色付く空を瞳でなぞる。

足を一歩、
ちょっと遠くに踏み出せば
軽やかに音が飛んだ。

春夕焼(はるゆやけ)

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お散歩してきたよ。

……あと、毎日

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淡雪

淡雪

苔むした巌
湯の花ひらひら温泉旅館。

淡雪が、溶ける音とひとしずく。

鈍色の街とシャボン玉。
シャンパンの海でダンスする。

泡雪が、解ける音とひとしずく。

核融合炉に描かれた
北斎の浮世絵に波飛沫。

沫雪が、融ける音とひとしずく。

白んだ空に。

アワユキガ トケルオトト ヒトシズク。

淡雪(あわゆき)

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内容は創作ですが、写真は下山芸術の森発電所美術館 栗林隆展より。

春の水

春の水

3月11日。あの日から今日で10年が経った。

どのような追悼の場が欲しいかという問いに
住民は、ただただ祈りの空間を求めた。

大きな大きな水盤には、水がなみなみと張られている。

海と共に生きているのだ。
目の前のさざ波を眺めながらそんなことを考えていた。

いつまでも忘れない。

ようやく凪いだ心の水面に零れ落ちたひとしずくから
波紋が静かに、閑かに広がっていった。

春の水(はるのみず)

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北窓開く

北窓開く

年季の入った窓桟の柄が好き。
古いガラスの気泡と揺らぎが好き。
桜の花びらで繕われた障子が好き。
建て付けが悪くて上手く開かないのに、
隙間はあって虫も風も通り抜けるから。

目貼剥ぐ。
馴染みの缶かんの封を切るように。

冬の暗闇に慣れた私に、
あなたは少し眩しすぎるかな。

北窓開く。
とっておきを頬張ろう。
ちょっとずつ。大切に。

北窓開く(きたまどひらく)

陽炎

陽炎

強い日差しに熱せられ、融けるようなアスファルトに立ち昇るのとはまた違った、春の麗らかな陽炎。
蜻蛉とも呼ぶように、
その響きはどこが儚く、仄かに命が薫る。
陽光に誘われてひとり出てきた公園では、
まだ花も疎らな枝垂れ桜がふらふらと風に遊んでいた。

春は出会いの季節でありながら、
反面、別れの季節でもある。

あの日、
下りた踏切のトラバーが歪んで見えたのは
瞳の中の海が揺蕩っていたせいかもしれな

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二月尽

二月尽

誰かに見つけて欲しいと願いながら、
同時に、人に理解されないことを求めている。
そして深海の底でひっそりと、
創造力という酸素が尽きる瞬間に少し怯えている。

辺りは静かで、僅かな感情の揺らぎが心地よい。
好きな色の泡(あぶく)だけを喰らって生きる。
いつも些か手札が足りない、仲間外れの如月(きさらぎ)のように。

その二月も今日で終わりを迎えた。

いかなる場所でも、春は等しく輝いている。

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春めく

春めく

春めく。庭の紅梅が見事に咲いた。

そよめく。青空に靡く若葉が美しい。

蠢く。芽吹く地面に少し浮き足立つ。

トキメク。期待に高鳴る胸の鼓動。

どよめく。透ける光のベールがあがる。思わず息を呑むほど。

艶めく。雫のついた菜の花色のアイシャドウ。

さんざめく。弾ける笑顔と花びらの驟雨。

煌めく。陽光に映える結婚指輪。

色めく。お互い"化粧"は、ばっちりね。

目眩く(めくるめく)、今や春

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