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コトバでシニカルドライブ

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頭の中でたまーに構成する言葉とコトバ。 その組み合わせは、案外おもしろいとボクは思う。誰に向けるでもなく、自分の中にあるスクラップをつなげてリユース。エッセイや小さな物語を綴りま…
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#掌編小説

[ちょっとした物語]長袖を着ると弱くなる気がする

[ちょっとした物語]長袖を着ると弱くなる気がする

 見上げた天井は、どこか虚ろで、今までも、これからもずっと変わらないのかななんて思って眺めていた。少し湿った空気が辺りを漂う土曜の昼下がり。
 なにかするにも、ままならず、ずいぶん前に撮った六本木の写真をインスタのストーリーズにアップする。たかだか200人くらいのフォロワーのための虚しい作業に、いつものように後悔をする。ものの数分で3つのいいねがついて、そのあとパタっとなにもなかったように、めくる

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[ちょっとした物語]やがて鐘はなる

[ちょっとした物語]やがて鐘はなる

 ここは静かなところだった。
 いつも思うのは、喧騒は心地よいということだった。人ごみに紛れていると、人が自分の壁となって守ってくれているような錯覚を覚えた。私は、ずっと、この片田舎で生まれたことに嫌悪を抱いていた。それが如実に心に存在したのは、中学生の頃からだったと思う。親元から離れる機会が増えるほど、故郷を遠ざける傾向は強くなっていった。

 同じ学校の男と付き合ったときに、私はこの地を離れる

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[ちょっとした物語] トルソーの誘いと春の風

[ちょっとした物語] トルソーの誘いと春の風

ある春の日の午後だった。
部活がはやくに終わり、僕は着替えて教室を出た。
あたたかな風が廊下を吹き抜ける。その誘いに足は運ばれる。

さらさらとなびくカーテンは、人の気配を薄くしていく。風にさらわれたカーテンの裏側に現れた人影。
僕はドキッとする。
でも微塵も動かない、その影は半身をこちらに向けて佇んでいる。

風に乗った葉の香り。近づくにつれて、乾きがなびいて、髪の毛を揺らす。手をその肩に置くと

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[ちょっとした物語] 霜の降りる朝と

[ちょっとした物語] 霜の降りる朝と

 吹き荒ぶ風の音に目が覚める。

 布団の触りと留まったほのかな温かさが体を動かしてくれない。しかし微かに聞こえるお湯の沸く音。まもなく生活の針が動き出す頃だ。
 窓から見える空の色は、澄んでいて、冬の日のそれを一身に表していた。

 ふと目を閉じてみると、季節の環が駆け巡る。春の、夏の、秋の、それぞれの時は都合よく目の前に現れては消えてゆく。
 一瞬の光は、常に重なり合って、また季節は折り重なる

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[ちょっとした物語]スライド

[ちょっとした物語]スライド

 電車の座席が好き。

 硬くもなく、やわらすぎず、体にフィットする感じが、好きなのだ。
 でも、がらんとした車内はあまり好きではない。立っている人は少ないが、座席はある程度埋まっている方が、安心する。

 ほら、今も目の前に並ぶ人たちが、各々本を読んだり、スマホを眺めたりしている。
 ゆらりゆられ、電車の振動は世界を運ぶ。そして時も運ぶわけだ。なんてことのない日常だけれど、この走るスピードのざわ

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