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長編小説:歩きタマゴ⑩
塾の近くのマクドナルドで、ぼくとエリは参考書を広げ合っていた。エリはプレミアムコーヒーをひとつだけ買って、勉強モードへと完全に移行していた。学校帰りの勉強というシチュエーションに慣れないぼくは、がっつりセットメニューを購入してしまう。手渡されたお盆が、二人用の小さなテーブルのおよそ半分ほどを占めてしまっていた。
「でもさあ」コーヒーの飲み口をふうと口で冷ましながら、エリは言った。「勉強を教えるっ
長編小説:歩きタマゴ⑨
「――それでさあ、ミズキ」
その日の夜はミズキが家に来ていた。エフは、エフの父と洋食屋に出かけるらしく、ミズキはその誘いを断ってこちらに来たらしい。入学式での一件の関係でしばらくは不機嫌だったが、エフがバラしたのだと分かると、諦めの気持ちからか、すぐに納得してくれた。それからミズキはリビングでアニメを一通り見た後、今は参考書で勉強し始めている。彼女が言うには、もうすぐ高校範囲の勉強が終わるらしい
長編小説;トパーズ色の海で ②
「夏衛、珍しいじゃないか」
文芸部の扉を開くと、むわりと籠った本の匂いの中で、三人がテーブルを囲んで小説を書いていた。話しかけてきたのは部長の北川先輩。このクソみたいな馴れ合い部活の中でも、まあ少し書けなくもない人だ。他二人は――モブだな。
「本当は来たくなかったんだが、春美のやつが来いって」
「お前、あいつのこと好きだもんな」
「は? てめえ、喧嘩売ってんのか? ぶっ殺すぞ」
「まあまあ――」