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祓隊剣舞連―はらたいけんぶれん―
アオイの矮躯は牙で撹拌され、渇いた土に肉片と血飛沫を撒き散らした。マサシは模造刀を振りかざして、ソイツらに叩き飛ばされてゲロと内蔵を撒き散らして赤黒いシミになった。そしてオレも、眼の前にいるぬらぬらした触手を生やした獣に殺されそうになっている。
唸り声はなく、ただオレが切っ先を向けた模造刀だけが、恐怖を伝えるようにカチャカチャと鳴り響く。赤い月が煌々と地を照らしている。何故と問う。鬼剣舞(お
誓剣よ、血の掟を断て
僕らは剣を振るった。金属同士が擦れる音と、瞬く火花。数手打ち合った後に、煌めく軌跡がカルロの首をなぞる。血飛沫。崩れ落ちる肉体。その後ろから迫るマッテオとルイーギ。双方の手には片手剣。
返す刃で剣の付け根を打つ。〈シチリア人〉の象徴であり、圧政の暴虐から民を守る矛であり盾。それは今の組織を表すように容易く折れた。手首を捻り、刃で弧を描く。僅かな動きで描かれた銀の閃光は再び二人の首筋を捉え、赤黒
「どうか、その名前が永久に讃えられますよう」
「私の身体はよろこびに充ちているんです、牧師様」
シンシアはそう言って、机の上に聖書を置いた。見つめ合う。柔らかな微笑み。
風がシンシアの髪を揺らした。黄昏色の夕日を照り返して煌めく。屋上のテラスからは、朽ちた廃墟と新しく生まれるビル群が見える。鏡の境界のように、ビル群に廃墟が映し出されている。
合成豆の珈琲を口にする。味を感じられないのは質が悪いせいなのか、それとも、僕の抱いた罪悪感故か。
逆噴射小説大賞2022ライナーノーツ『血を魂を記せ。迸る炎よりも熱く
逆噴射小説大賞とは?
八百文字で『続きが読みたくなるような小説』を書け!
優勝したらコロナとかドリトスがもらえる。
今年もやってまいりました、逆噴射小説大賞。
今回は一人2作までというレギュレーションです。
そのせいか皆様研ぎに研ぎ澄ましたヤベー小説ばかりを投稿し、密度は例年より増してるんではないかなと思います。
和刃も手慰みに二発撃ち終わりました。今年こそ大賞をとりドリトスとコロナでメヒコし
『コールド・ケース』
「『コヨーテ』、『A.C.I.D』を同期させておけよ」
防護スーツの左腕部に装着されたスマホサイズの端末を操作すると、暗闇に『ハイエナ』『ハトブシ』『シデムシ』の淡いグリーンの輪郭と、摂氏16℃の気温。残弾数、俺のバイタルサインが網膜に投影された。
防護スーツに個人携行装具、ヘルメットにガスマスクの男―『シデムシ』が肩を叩く。
「気温計に注意しろ。一桁を割ると出てきた証拠だ。照明の点滅にも気
粛裁(しゅくさい)の鐘よ鳴り響け。我が命を以て
『心せよ、リヨン。汝に赦されたのは"5発"。6発目は過たず汝を撃ち抜く』
鈍く照り返すステンレスのリボルバーを手にしたとき、《死天使》からの宣託がわたしの頭に残響した。
スポットライトのような灯りに照らされる円卓。並ぶのは6丁のリボルバー。四方の闇からはコッキング音が響く。眼前にはウエスト・イングランドの闇商売を司る長老たち。わたしは1人に、5人はわたしに銃口を向ける。
その一人、サー・フレ
僭主の円環―ヴェルトゥール・サーガⅠ―
茜に染まる空に紺色が忍び寄る。
雲の帳が赤々とした太陽を飲み込み始めると同時に、草原に点在する石柱の影は濃さを増して、暗闇との境が曖昧になっていった。
空に星は瞬かず、3重に交錯する眩い『円環』が走っている。あまねく生命の輪廻を司る、神のみわざだ。
そのひとつにヒビが走り、僅かに砕け散り、こぼれた残滓が煌めいた。すっかり濃紺に染められた空に、虹色に光り輝く残滓が彩りを添えた。
ひび割れ、砕
混沌の落胤は水とともに地に満ちて(改稿版)
渋谷の交差点。
カップル、親子連れ、ジャージの無頼漢、誘導する警官、ゴムでできた仮面の狼男。ポリエステルの黒い尖った帽子を被る魔女。血糊で汚れたナース。
手には缶酒、杖などの小道具。フードサービスの袋。口を歪め歯を剥き出して、喜怒哀楽を吐き出して、混沌とした音声を産み出していた。
久方ぶりの渋谷ハロウィンに湧く人々の中に、鎧を纏うものがいた。
車のヘッドライトを照り返す鈍い光沢。風に吹かれ
混沌の落胤は水とともに地に満ちて(8)
『獣溜まり』に囚われた『子孫送り』が子供を為している。
それを知った『狩人』が、仮の拠点である廃ビルを飛び出して1日が経過した。屋上では、『子孫送り』の少女と『女狩人』が、渋谷区中心部にある汚水と瓦礫の繭を見ながら、近隣のコンビニで拝借してきた粉末ポタージュを飲んでいた。
板金が凹み、底が焦げた風情のあるカップには白濁したとろみのある液体と、緑のうきみと極小のクルトンが泳いでいる。湯気が曇天へ
【妖剣、邪剣、終夜─ようけん、じゃけん、よもすがら─】
都内の当流剣術、柏木館食客の嵯峨倫太郎は遅めの昼餉に取り掛かっていた。
主菜は薩摩芋と油揚げの炊き込み飯。薄茶に染まる米は艶やかに輝き、ふっくらした油揚げは旨味を主張するように汁が薄らと染み出し、芋は肉厚の身が黄金のごとくありありと。
副菜は鮃の味醂干し、豆腐。狐色の焦げ目は醤油の香ばしさを漂わせ、裂けた身からは脂が乗った白身が顔を覗かせている。
味噌汁は豆と白の合わせ味噌。葱の小口切りに凍
混沌の落胤は水とともに地に満ちて(7)後編
擦りきれた外套を、翼の如くはためかせ飛来する二人に反応し、『獣』らが中央部へと集結する。
『女狩人』の斧槍から、着地と同時に放たれた石突の一撃によりまず一匹が頭を地に縫い止められ、口を開いた二匹目は、『狩人』の剣閃により開きにされた。
乾いた瓦礫を濡らす、粘度の高い黒い血。大挙する『獣』たち。
『狩人』が剣を振るう。暴風のごとき剣の軌跡は、止むことなく『獣』の群れを行き交い、鈍い銀の閃光が瞬
混沌の落胤は水とともに地に満ちて(7)前編
『狩人』と『女狩人』が得物を振り抜くと同時に、少女へ『獣』のあぎとが迫っていた。
鈍い銀の軌跡は迫る『獣』の肉へ猛追し、『女狩人』の斧槍は触手を、『狩人』の剣は脚を捉えた──が、刃溢れした『狩人』の剣は『獣』の勢いを殺ぐことはかなわず、少女は『獣』に咥えられた。
「おい!」
悲鳴をあげることも、表情を変えることもなく、少女は『獣』の口許に収まったまま、『狩人』らを見ていた。『獣』は触手の断面
キングスマン・ファーストエージェント感想(ネタバレあり)
■キングスマン誕生の物語■国家に属さない、独立した諜報組織
「キングスマン」の誕生を描いた今作。
第一次世界大戦という未曾有の惨劇のうらで暗闘するスパイという絵図は、今までの「昔ながらのスパイアクション」とは一味違う、ドラマ性の強い作品となった。
過去のキングスマンシリーズと比べると、ロマン溢れるガジェットや外連味溢れる展開にアクション、カタルシスは薄く物足りなさを感じる「すました優等生ヅラし
古河派介柔剣術作法『山背』改メ
関東七流を祖として、数多の古流が勃興して幾星霜。
時代を経るにつれて、撃剣が主流となるも古流の火は絶えること無く、老若男女の区別なく、今日にあって帯びること許されぬ刀を振るい研鑽に努める。
何故に"武"を修めるか。
曰く、"心身の研鑽"。
曰く、"温故知新"。
曰く、"見目の良さ"。
枝葉になる実のごとく千差万別。
貴賤なし──と云えるかは判らねど、刀剣の時代から銃火の時代を経て、泰平の世
混沌の落胤は水とともに地に満ちて(6)
抹香と紫煙が漂っていた。
次に目に写るのは、白と黒。明と暗、ハレとケガレ、生と死──。
鈍色の服を纏う葬列と、死者を弔うための、意味不明な発音のらせん。
襖の格子に分かたれた目映い光は、目の前の景色の色を簒奪しているかのごとく、誰も彼もが陽炎のようにあやふやで、自分達に投げ掛けられる哀れみも残響の彼方へと消えてゆく。
震えた吐息。『狩人』は隣に座した弟を見る。感情は鉛のように重く──氷のよ