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祓隊剣舞連―はらたいけんぶれん―

 アオイの矮躯は牙で撹拌され、渇いた土に肉片と血飛沫を撒き散らした。マサシは模造刀を振りかざして、ソイツらに叩き飛ばされてゲロと内蔵を撒き散らして赤黒いシミになった。そしてオレも、眼の前にいるぬらぬらした触手を生やした獣に殺されそうになっている。

 唸り声はなく、ただオレが切っ先を向けた模造刀だけが、恐怖を伝えるようにカチャカチャと鳴り響く。赤い月が煌々と地を照らしている。何故と問う。鬼剣舞(おにけんべ)の練習が大惨事になって……散り散りになって……友達は……。

 獣はオレに飛びかかる。まるで鈍化したかのように動きも、鼓動も、ひどくゆっくりに見えた。走馬灯なんだろうか?オレは何をすればいい?懺悔?なぜ?オレたちが何をしたというんだ?

 剣を持つ手に力が入る。許さねえ、仇討ちだ。せめて一矢報いてやる。ぎりぎりと柄が鳴る。獣の臭気が顔にかかる。牙が……。


 獣が、四散した。


 ぬるりとした青黒い何かが頬に。拭うことも忘れる。眼の前には屍肉。痙攣するそれと、黒衣と帽子、カラスの羽飾りを身に着けた背の高い外人。皺が走る青白い髭面が歪む。

『獣どもめ』

 何を言っているかわからない。しかし外人は青白い何かに塗れた鋼――細い西洋剣――を構える。圧迫感が増した。闇に煌々と光が灯る。殺気。唸り声。草を踏みつける音。獣が次々に現れる。

『ho!ho!ho!』

  外人が吠える。剣は弧を描き、獣の爪を弾き、肉を裂いてゆく。移動も防御も攻撃も、闇に描かれる鈍色の円形で完結する。

 既視感があった。あの足踏み、円を主体とする体捌きは……。

 四方から感じる圧迫感。だが、恐怖は消えていた。刀を構える。足を上げ、一定の韻で踏みしめる。自然と、外人に背を預ける姿勢になっていた。刀が弧を描きはじめる……。

「ho!ho!ho!Dah!Dah!Dah!」

 オレ目掛け飛んでくる触手。しかし、鬼剣舞の振付がそれを受け流し、斬り裂いた。

【つづく】

アナタのサポート行為により、和刃は健全な生活を送れます。