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混沌の落胤は水とともに地に満ちて

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渋谷ハロウィン。生者が白痴に身を委ねて狂乱するこの日、あれは降臨した。 水没した渋谷廃墟で、異形の『獣』が蠢くなか、『狩人』が家族を捜してさ迷う。 渋谷の中心には目覚めの刻を待つ… もっと読む
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混沌の落胤は水とともに地に満ちて(8)

混沌の落胤は水とともに地に満ちて(8)

『獣溜まり』に囚われた『子孫送り』が子供を為している。

それを知った『狩人』が、仮の拠点である廃ビルを飛び出して1日が経過した。屋上では、『子孫送り』の少女と『女狩人』が、渋谷区中心部にある汚水と瓦礫の繭を見ながら、近隣のコンビニで拝借してきた粉末ポタージュを飲んでいた。

板金が凹み、底が焦げた風情のあるカップには白濁したとろみのある液体と、緑のうきみと極小のクルトンが泳いでいる。湯気が曇天へ

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混沌の落胤は水とともに地に満ちて(7)後編

混沌の落胤は水とともに地に満ちて(7)後編

擦りきれた外套を、翼の如くはためかせ飛来する二人に反応し、『獣』らが中央部へと集結する。

『女狩人』の斧槍から、着地と同時に放たれた石突の一撃によりまず一匹が頭を地に縫い止められ、口を開いた二匹目は、『狩人』の剣閃により開きにされた。

乾いた瓦礫を濡らす、粘度の高い黒い血。大挙する『獣』たち。

『狩人』が剣を振るう。暴風のごとき剣の軌跡は、止むことなく『獣』の群れを行き交い、鈍い銀の閃光が瞬

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混沌の落胤は水とともに地に満ちて(7)前編

混沌の落胤は水とともに地に満ちて(7)前編

『狩人』と『女狩人』が得物を振り抜くと同時に、少女へ『獣』のあぎとが迫っていた。

鈍い銀の軌跡は迫る『獣』の肉へ猛追し、『女狩人』の斧槍は触手を、『狩人』の剣は脚を捉えた──が、刃溢れした『狩人』の剣は『獣』の勢いを殺ぐことはかなわず、少女は『獣』に咥えられた。

「おい!」

悲鳴をあげることも、表情を変えることもなく、少女は『獣』の口許に収まったまま、『狩人』らを見ていた。『獣』は触手の断面

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混沌の落胤は水とともに地に満ちて(6)

混沌の落胤は水とともに地に満ちて(6)

抹香と紫煙が漂っていた。

次に目に写るのは、白と黒。明と暗、ハレとケガレ、生と死──。

鈍色の服を纏う葬列と、死者を弔うための、意味不明な発音のらせん。

襖の格子に分かたれた目映い光は、目の前の景色の色を簒奪しているかのごとく、誰も彼もが陽炎のようにあやふやで、自分達に投げ掛けられる哀れみも残響の彼方へと消えてゆく。

震えた吐息。『狩人』は隣に座した弟を見る。感情は鉛のように重く──氷のよ

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混沌の落胤は水とともに地に満ちて(5)

混沌の落胤は水とともに地に満ちて(5)

瓦礫、電柱、倒れた看板、瓦礫、朽ちた軽自動車、電柱──道なき道を、『魔狩りの騎士』は跳躍する。

水で満たされた道玄坂の対面にある廃墟ビルには、別の『魔狩りの騎士』が朽ちた柱を縫うように進む。崩れた壁から跳躍し、今や雑菌や苔の住み処と化したバスに着地した。

2騎の眼前には、道路を満たす水に囚われることなく疾駆する『獣』。粘液に覆われた触手や、枯れ枝のような腕がたてがみのようにうねり、そこから鹿の

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混沌の落胤は水とともに地に満ちて(4)

混沌の落胤は水とともに地に満ちて(4)

『狩人』はカンテラを手に、少女へ向かって翳す。蒼い炎はただ揺らめき、心拍のように収縮するだけだった。

「"子孫送り"か」

『狩人』は呟いた。

「水に浸かってたら、こう──なった」
「気休めにしかならんが、自我を保てている分まだマシだ」

少女の喉がきゅる─っと鳴る。『狩人』は剣を取る。騎士と打ち合ったせいか刃こぼれが目立つそれを背負い、立ち上がる。少女は目で追いかけるだけで、微動だにしな

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混沌の落胤は水とともに地に満ちて(3)

混沌の落胤は水とともに地に満ちて(3)

□□□□□□■

『狩人』の意識は現在の時間軸には無い。

目映い光の元で、一組の男女が永久の愛を誓い合っていた。

──兄貴!
──お義兄さん。

二人が笑いかける。手にした両親の遺影が、微笑んだ気がした。

賃貸に運び込まれる荷物。幸せで膨らんだ重み。荷物を運び込み、不快ではない汗を拭う。

弟夫婦との昼食。将来を語り合う二人。

弟が屈託のない笑顔を向ける。

──兄貴も名前つけるの手伝って

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混沌の落胤は水とともに地に満ちて(2)

混沌の落胤は水とともに地に満ちて(2)

『魔狩りの騎士』は男の問いに答える様子も無く、男の剣を握る手と、騎士の四肢に強張りが生じ始める。

腐肉と獣のおぞましい血で汚れた水面は凪ぎ、風化し、まるで虫に食い荒らされた臓器のように至るところを穴だらけにした建造物を冷ややかな空気が通過し、微睡む白痴の呆けた唸りのような音を響かせる。

心臓が脈打つように、水面がうねりはじめた。

騎士は水没した遺骸の脊椎を拾い上げ、逆袈裟の軌跡に薙いだ。男は

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混沌の落胤は水とともに地に満ちて

混沌の落胤は水とともに地に満ちて

渋谷区は久方のハロウィンで人の群れが蠢いていた。

拙い仮装の中、精緻な紋様を刻んだ鎧姿は人目を引く。嘲笑と、好奇心と、羨望と、猜疑。それが十人、百人──と増えて行くと、人々の感情は困惑と恐怖に固定されてゆく。

鎧達の左手に提がるのは鐘。
伽藍の中で塊を転がすような、耳障りな音。

心音のように等間隔で、刻限を告げるかのごとく響くソレは喧騒のなかにあって尚耳障りで、聴衆は胸がつかえるような不快感

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