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「どうか、その名前が永久に讃えられますよう」

「私の身体はよろこびに充ちているんです、牧師様」

シンシアはそう言って、机の上に聖書を置いた。見つめ合う。柔らかな微笑み。

風がシンシアの髪を揺らした。黄昏色の夕日を照り返して煌めく。屋上のテラスからは、朽ちた廃墟と新しく生まれるビル群が見える。鏡の境界のように、ビル群に廃墟が映し出されている。

合成豆の珈琲を口にする。味を感じられないのは質が悪いせいなのか、それとも、僕の抱いた罪悪感故か。

シンシアは立ち上がる。僕を見つめる薄緑の瞳がキュル……と音を立てた。

一歩、一歩とシンシアはふちへ近づく。静かに、厳かに。シンシアは太陽へ手を翳した。何かを掴もうとしているような仕草。手が生み出した影がシンシアの眼を覆い隠している。

「あなた方は忘れてしまったんですね。私がうちに抱いたよろこびが、どれほど素晴らしいものか」

笑み。弓形に歪む口元から出された言葉は悲しみにも嘲りにも聞こえるようで、僕の唇からは吐息しか漏れなかった。

シンシアは手を広げ、飛んだ。

重力が彼女を誘う。躊躇いなく投げ出された躯体は、鏡面と朽ちた石材の境を落ちて……。


破砕音。


下を見る。

散らばる甲殻に人工筋肉、青い疑似血液は翼のように広がっている。目玉や耳、顎は四散している。薄緑の球体は黄昏を見上げていた。

「管理官より『マリーエンキント機関』へ。セクション・ボアネルゲ完了。セクション・ユダへ移行を開始する」

インカムに指示を出して、ヘッドギアを上げる。


一面の白。

円形の部屋の中央には、青い液体に満たされた培養槽。中には体毛と性器のない人型のなにかが眠るように浮かぶ。

ボアネルゲ完了に呼応するように、眼球と鼻、口が形成された。記録ではなく、記憶を以て形成されてゆく「神」を見下ろす。

インカムに通信が入る。

《管理官、『アナスタシア』が"話をしたい、応じなければ自壊する"と……》

アナスタシア……『ユダ』の担当だ。

《つづく》

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