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『コールド・ケース』

「『コヨーテ』、『A.C.I.D』を同期させておけよ」

防護スーツの左腕部に装着されたスマホサイズの端末を操作すると、暗闇に『ハイエナ』『ハトブシ』『シデムシ』の淡いグリーンの輪郭と、摂氏16℃の気温。残弾数、俺のバイタルサインが網膜に投影された。

防護スーツに個人携行装具、ヘルメットにガスマスクの男―『シデムシ』が肩を叩く。

「気温計に注意しろ。一桁を割ると出てきた証拠だ。照明の点滅にも気を配れ。規則的な点滅がしたら……ヤバいやつだ」

喉の中が干上がってるので、頷いて返事した。


辺りを見渡す。大型テレビに、黒壇の卓とフカフカなソファ、観葉植物にデカい窓。システムキッチン。理想のリビング。一家惨殺の現場でなけりゃ俺が住みたいぐらいだ。

窓が黒塗りされているみたいに暗い点と、卓上に光る日記があることを除いて。

「除霊対象に関連した異常生成オブジェクトは、こうやってハイライトされる。事前のプロファイリングと併せて除霊対象を特定しろ」

『シデムシ』に相槌を返して、黒ずんだ血痕に染まる日記帳を手に取る。薄い、市販のもの。

父親のものでは無さそうだ。母親か、娘のものか。

ページも血に染まっている。文字は読めそうにない。血でくっついて居ないのが幸いか。人差し指でなぞって、解読可能な文字がないか調べる。

捲っても捲っても、血飛沫、たまにまだらな数文字。たまに髪の毛。

最後のページ。まだらな血化粧に意味不明な文字の羅列。日記帳を閉じた。


表紙の血飛沫が「みつけた」の4文字を形成した。


顔を上げる。仏間になっていた。見取り図に仏間はない。

他の三人はいない。摂氏マイナス2℃。ぬかった。吐き出した息が凍りつく。腐った畳に足をとらわれ膝をつく。

眼の前のズダズダに引き裂かれた襖の穴から視線、視線、視線、視線……。

蛍光灯が明滅する。2回、しばらくして一回。

明滅する視界、凍りつく視線。
俺は小銃を構えて、撃った。

《つづく》

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