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逆噴射プラクティスいちらん

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記事一覧

ザ・ゴールデン・エイジ

ザ・ゴールデン・エイジ

「今日のニュースはこちら!名実共にアメリカ一のヒーロー、ブライトシェルの独占インタビューです」

軽薄そうな、トパーズのスーツを纏ったアナウンサーに促され、目の痛くなるような過剰装飾のスタジオにブライトシェルは通された。騎士を連想させるフルヘルメットに、黒のディレクタースーツという間抜けな格好に、仮面の内で失笑しながら、スタジオを埋め尽くすファンらに手をあげて応える。割れんばかりの歓声に、拍手。4

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超機甲忍・死人滅却譚(原題:ゾンビスレイヤー・メタルニンジャ)

BTARARARARA!
カービン銃から吐き出される弾丸の雨をものともせず、ゾンビ軍団は、津波のように生者を呑み込む。そのあとには、肉を食い千切られ、唸り声をあげるゾンビしか残らない!かつて父と子が予言した黙示録の光景が其処にあった。炎と暗黒と、死者の群れが、地上を闊歩する。

これが、日本の忍者達の末裔らが産み出した邪道なる術、左道反魂による影響とは誰が知ろうか?死者を蘇らせる筈の術は、ゾンビを

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アセンション:ブレイブ・ニューワールド・オーダー

アセンション:ブレイブ・ニューワールド・オーダー

あらすじ:性別や年齢を自在に決めることが出来る近未来、ウエスト・イングランド下院議員のフレデリックは、ある日IDを抹消されてしまう。性別や年齢で自己を判断できないため、自分は本当に自分なのか、疑念に蝕まれたままフレデリックは全てを失う。やがて、それが倫理委員会の上位意思決定機関『オーバーロード』が画策した陰謀だと掴むも、希釈された意思は長く持たず、『オーバーロード』の狙い通り、集合意識に取り込まれ

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パーティー・イズ・オーバー2【プレリリース版】

パーティー・イズ・オーバー2【プレリリース版】

マーカスはケブラー繊維のコートの襟を立て、タバコに火をつけた。合成煙草のオイルのような味が口内に拡がり、唾がじわじわと満ちて行く。

漆喰の剥がれた壁、中身の散乱したごみ袋、痩せて死んだ犬に、その腐肉を食い散らかしまるまる太ったウジ虫、赤いスプレーで壁に落書きされているのは、フロム・ヘルの一節──。眠っているか死んでいるか判断のつかないジャンキー、それらが横たわる裏路地をマーカスは行く。

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スケアクロォグ

スケアクロォグ

吹き抜ける風が、黄金の海原をなでる。晴れた青空を不吉な雲が侵食して行く、黄金を宿す畑から光が喪われ、風は、これから起こるであろう凄惨な戦いを予感するように、強く、強く吹き付ける。

見渡す限り、黄金の穂がさざめく畑に男が一人、つばの広い帽子に、外套姿。どちらも雨風にさらされ、あるいは銃火にさらされのか、よれよれのくたくただった。しかし、外套の襟と帽子の隙間から覗く目は、餓えた狼のごとく爛々と輝

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鉄翼のイカロス

鉄翼のイカロス

人工タンパク質をスライスしたベーコンがカリカリに焼き上がり、なんとも言えない臭いを放つ。イミテーション・オーツによるパンをフライパンで焼き上げ、沸騰したお湯を、コーヒー粉末入りのマグカップへ淹れる。

偽物のベーコンからでた脂で、今度は本物の卵を入れる。これが配給されるのが、わたしが今就いている職の、数少ない利点だろう。

卵は小気味良い焼き音と共に、白く変色してゆく。フライ返しで巧くすく

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レジサイド

レジサイド

薪が燃えて、はぜる。焚き火を囲う、巨大な獣の肉から滴り落ちる獣脂が、火に落ちて、その勢いを増す手助けをする。

ヘイザムはただ独り、それを見ていた。筋骨隆々の体は、ますます滾りを増して、一回り大きくなっているようだ。

身をつんざく夜の寒さも、今では感じない。焼けた肌に刻まれた、獣の爪痕に、部族の勇敢な戦士を称える刺青が、己のうちに燃え盛る闘志を鼓舞する。

火は偉大だ。肉を焼き、暖を

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パーティー・イズ・オーバー

パーティー・イズ・オーバー

クラブから響く8ビートが、鼓動とシンクロする。口の中はカラカラに乾いており、サングラスの奥の目玉は、不審者を見逃さないよう過剰にギョロついている。

マーカスは用心棒(バウンサー)だ。それを示すように、左手にくくりつけたホログラフィー・リストには、『security』の文字が浮かび上がり、我此処に在りと言わんばかりに点滅している。

学もない、伝(つて)もない自分が成り上がるには、ナイトク

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ブレイブ・ニューワールド・オーダー

ブレイブ・ニューワールド・オーダー

フレデリック・バーンズは悩んでいた。今日は『男』にするべきか『女』にするべきか。

悩んだ末に、いつもどおり『男』を選択した。『男』ならば、パーツはいつものものを選択する。

ロマンスグレーの髪を後ろに撫で付け、角張った輪郭に高い鼻、青い瞳。アングロ・サクソンの典型的な『男』のアバターを作り上げる。

性別も年齢も、自在に選べるような時代にあっても、フレデリック・バーンズはこのスタイル

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ヒューマンライツ・ポリス



アリピプラゾールを1錠、口に含んでからミネラルウォーターで胃へ流し込む。一時間もすれば、抗うつ作用として、ドーパミンが分泌され、その炎がわたしの神経を焼き尽くすだろう。

ネクタイを締め直し、やや乱れた髪を手ぐしで整え、車のミラーで顔を見る。こけた頬に鋭い眼差し、神経質そうな男──いわゆる、わたし──が映し出された。ペルソナのようなその面が歪む。何を怒っているのか、このやせっぽちは

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