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パーティー・イズ・オーバー

クラブから響く8ビートが、鼓動とシンクロする。口の中はカラカラに乾いており、サングラスの奥の目玉は、不審者を見逃さないよう過剰にギョロついている。

マーカスは用心棒(バウンサー)だ。それを示すように、左手にくくりつけたホログラフィー・リストには、『security』の文字が浮かび上がり、我此処に在りと言わんばかりに点滅している。

学もない、伝(つて)もない自分が成り上がるには、ナイトクラブを利用するほかない──そんななか、新しく開店するクラブの用心棒を任されたことは、まさに神の思し召しというほか無かった。

『Hi.マーカス。問題ないかい』
「順調ですよ、Sir」

店長からの無線に軽口で応答した瞬間、目の前に革ジャンで武装したパンクスが、二、三人。ニキビが浮かぶ面はどう見ても未成年だ。

「失礼、IDチェックを」

儀礼的な一言に、パンクスの一人が嘲笑する。それから、これがIDだと言わんばかりに、拳を振り上げ、マーカスの顔面に叩きつけようと──

「これがIDか?Dude.」

出来なかった。マーカスの機械拡張(オーグメント)された右手が、パンクスの拳を掴み、握り潰した。

悲鳴と指の破片が撒き散らされ、パンクスの残りがナイフを取り出した。マーカスも臨戦態勢となる。円滑なナイトシーンのため、脅威は排除されなければならない。

「息をお引き取りください、お客様」

【続く】

#逆噴射プラクティス #小説

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