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鉄翼のイカロス

人工タンパク質をスライスしたベーコンがカリカリに焼き上がり、なんとも言えない臭いを放つ。イミテーション・オーツによるパンをフライパンで焼き上げ、沸騰したお湯を、コーヒー粉末入りのマグカップへ淹れる。

偽物のベーコンからでた脂で、今度は本物の卵を入れる。これが配給されるのが、わたしが今就いている職の、数少ない利点だろう。

卵は小気味良い焼き音と共に、白く変色してゆく。フライ返しで巧くすくいあげ、ぶくぶくと油が泡立つベーコンと、きつね色のトーストの横に置く。空しき伝統のイングリッシュ・ブレックファストだ。

新聞をひろげ、連載されたパルプ・フィクションを読もうとしたが、掲載された記事をみてやるきを無くした。一面にわざとらしく載せられたそれは、食欲すら失いかねないほどだった。

人権団体、叫ぶ!
医療用クローンにも人権を。
本日にも決起集会か

勘弁してくれ。本人の同意を得て、欠損した肉体や臓器の代替ができる医療用クローンは合法のはずだ。スペンサーは嘆息した。

スペンサーはナチュラリストではない。しかし、こういったデモに密接に関わる仕事をしている。もし仕事中にこういった輩と関わることがあれば、間違いなくきまずい一日になるだろう。

物思いに耽る暇すら与えない──と言う具合に、時計のアラームが鳴る。制服を着、銃をホルスターに仕舞う。薬室に弾は込めた。装備に問題はない。新聞を床に放り投げ、スペンサーは立ち上がった。

仕事の時間だ。

【続く】

アナタのサポート行為により、和刃は健全な生活を送れます。