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『「介護時間」の光景』(60)「線」。6.3.

 いつも読んでいただいている方は、ありがとうございます。おかげで、書き続けることができています。

 今回は、冒頭の内容は繰り返しになり、申し訳ないのですが、私が介護に専念している頃のことです。

 前半は、20年前の「2001年6月3日」のことです。後半に、今日、「2021年6月3日」のことを書いています。

自己紹介

 私は、元々、家族介護者でした。
 1999年から介護が始まり、2000年に、母は転院したのですが、私は病院に毎日のように通い、家に帰ってきてからは、妻と一緒に義母の介護を続けていました。

 転院してからも、母の症状はしばらく安定せず、全く会話ができないような状態になったかと思うと、急に回復する、という繰り返しがあり、それは周囲の人間にも負担がかかることでした。

 自分が病院に通っても、医学的にプラスかどうかは分かりませんでしたが、でも、通わなくなって、二度とコミュニケーションが取れなくなったままになったら、と思うと、怖さもあって、通い続けていた頃でした。

2001年6月3日

 この頃、毎日のように日記代わりにメモをとっていた。

 6月1日と6月5日の記録はある。

 6月1日は、前日にバナナ4本持って行ったのに、すでになくなっていたことで、少し不安になっていた。そして、午後7時過ぎに病院を出るのに、午後6時を過ぎたあたりで、母が「もう帰るの?」と最近やたらと繰り返すことも気になっている。

 6月5日は、いつも普通に開け閉めをしている母親の病室のドアが、「番号がわかんないと、開かないのよ」といったことを、思い出したように何度か繰り返していて、それはよく分からないことではあったのだけど、不安そうな表情が気になった。
 さらには、どこも一緒、どこも同じ、というような、ちょっと投げやりな言い方を繰り返していたことも、聞いている方が不安になった。

 6月3日の記録は残っていない。
 今になってみれば、どうして何も書いていないのか、覚えていない。

 何かショックなことがあったのか、疲れていて、何も書く気になれなかったのか分からないが、その日に、見た光景だけは、書いている。
 無力感が強い日も、少なくなかったように記憶している。


 駅の線路のそば。プラスティックのグレーの太いパイプが建物にくっついているように見える。

 パイプをおおう金属っぽい薄い紙のような銀色。少しはがれて、赤やいろいろな色が見える。それに、その銀色は妙にシワだらけ。

                     (2001年6月3日)


 その後、母は2007年に亡くなり、義母は2018年に亡くなって、介護は終わった。


2021年6月3日

 コロナ禍は続いている。
 そんな中での変化は、ワクチン接種が始まったことだった。

 医療従事者、高齢者、という順番で、ワクチン予約が始まっている。電話がつながらない、と言われているので、こうして使いこなせていないとはいえ、コンピューターも使用しているので、サイトでの予約を依頼されて、自分にも関係してきた。

 5月の集団摂取ではなく、個別の接種の希望だったので、その予約は6月1日から始まるということで、その日の朝、午前8時30分からサイトを開いて、スキルが低い自分としては必死で、何とか予約をした。

 集団接種、個別接種に加えて、大規模接種まであり、選択肢が増えたとはいっても、混乱と不安が減ったとは思えなかった。

 ワクチン接種の予約だけで、なんだか疲労するのは変な話で、もっと不安や負担を減らす方法があってもいいのにと、思った。

 コールセンターの疲弊も無理はないが、苦情電話をする方の都合も聞いているので、このワクチン接種のシステム自体に無理があるとしか思えなかった。

 そして、またワクチン接種に、新しい動きが加わってきたらしい。混乱や不安が増えないことを、願うように思うしかない。

路地の光景

 午後、洗濯物を取り込もうとして、外をみたら、向こう側へまっすぐ抜けている路地に、人がいた。路地は、全長で、たぶん40メートルくらいある。

 路地を出ると、すぐに道路があるからT字路のようになっている。その路地は、家の窓から、ちょうど向こう側まで見えて、そのこちら側の、路地の出口にベビーカーを押す女性がいて、路地の真ん中くらいに小さい子供(男女がわからず)が、ややぎこちない動きで、こちらをみている。

 女性が手をあげて、その子に合図を送る。

 一歩、こちら側へ、その2歳くらいの子が動いたが、すぐにくるりと後ろを向いて、よちよちという表現がぴったりのように、動き始めた。すると、ベビーカーに座っていたらしい、もう少し大きい男の子が立ち上がり、その小さい子へ向けて小走りで近寄っていく。4歳くらいだろうか。

 「兄」は、手を取って、小さい子を、こちらへ歩かせようとするが、それは振りほどかれ、路地の塀に、つかまって、その中をのぞきこんでいるようで、何しろ、そこから動かなくなる。

 こちらにいた女性もベビーカーを押して、二人の子供の元へ近づく。
 
 それでも、小さい子は、動くかと思ったら、よちよちと歩き、逆側の塀に張り付くようにつかまって、動かなくなる。「兄」がそばに寄って、何か話しかけているようにも見えるが、首を振ったりして、動かない。

 女性は、見守るように、近くで待っている。

 小さい子は、少し動いて、また塀につかまるを繰り返している。時々、「兄」の方も、同じような動きをしている。そうしながら、こちらの路地の出口付近にまで、やっと3人で辿り着いた。

 今日は、道路沿いのマンションに、植木を剪定する業者が来ていて、最後のところで、またその作業をのぞきこんで、今度は二人とも、しばらく動かなくなる。

 ここまで10分くらい。
 女性は、静かに穏やかに待ちながら、ゆっくりとここまできて、最後は、子供たちは、作業する男性に声をかけられ、それでも、その作業の場所から立ち去り難いような仕草を見せながらも、少しずつ三人は遠くに去っていった。



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