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「介護books セレクト」⑦『大人の発達障害を診るということ 診断や対応に迷う症例から考える』

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/ 公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

「介護books」

 当初は、いろいろな環境や、様々な状況にいらっしゃる方々に向けて、毎回、書籍を複数冊、紹介させていただいていました。

 このシリーズは7回続けたのですが、自分の能力や情報力の不足を感じ、これ以上は紹介できないのではないか、と思い、いったんは「介護books」を終了します、とお伝えしました。

 その後、それでも、紹介したいと思える本を読んだりすることもあり、今後は、一冊でも紹介したい本がある時は、お伝えしようと思い、このシリーズを「介護booksセレクト」として、復活することにしました。

 いったん終了します、とお伝えしておきながら、後になっていろいろと変更することになり申し訳ないのですが、よろしくお願いいたします。

 今回も、1冊を紹介したいと思います。

「大人の発達障害を診るということ 診断や対応に迷う症例から考える」  青木省三・村上伸治 編

 専門家の一部では、「発達障害ブーム」と、あまりプラスでない意味合いで語られるほど、「発達障害」という言葉は、一般的になりました。

 そして、それは、診断という場面以外にも、あまりにも安直に「発達障害」というラベリングがされていて、場合によっては「排除」に働きがちなことすらあるので、「発達障害」という言葉を、そんなに簡単に使っていいのだろうか、といった気持ちにもなります。

 ただ、こうした書籍を読むと、他の診断名がついた方々に対して、「もしかしたら発達障害もあるのでは」といった視点によって、その患者さんにとって、適切な対応がとられ、そのことによって、より楽になり、生活がしやすくなることもあるんだ、という事実にも気がつきます。

 これは、医師の方以外には、あまり関係があるように思えないかもしれませんが、少しでも支援に関わっている方であれば、その姿勢は、とても参考になるように感じました。

 複数の著者が書いているので、すべてが同じ人のことではないのですが、その丁寧さや粘り強さは共通していて、この押し付けがましくない集中力の持続によって、初めて少しでも救われるような人がいるのかもしれないと思えました。

具体的な事例

 例えば、この書籍での、事例の一例です。それまで、仕事が続かないと言われていた青年が、しかし、それは、これまで本人も周囲にも気がつかれにくかったのですが、実は、自身ではどうしようもない「発達障害」のためであって、だから、適応できる場所であれば、それまで続かなかった仕事も、継続可能ではないか、と見立てた筆者が、このような言葉を伝えています。

 「君の優しい真面目な性格には、福祉の仕事が向いているような気がする。お年寄りの世話をする仕事はどうだろうか、面接ではなく、しばらく手伝わせてもらって、君の働きぶりを見てもらったらどうだろうか」と提案してみた。 

 そのことによって、この患者さんは、その後、仕事を続けることが出来たそうです。もし、こうした医師に出会わなかったら、この人の、その後の人生そのものが変わったかもしれないと考えると、誰に出会うか、という運のようなものを感じて、理不尽さのようなものも考えてしまいます。

 それでも、そんな当たり外れの運のようなものを、出来るだけ減らそうとするならば、個人的には仕事の能力を上げる、といった努力や工夫を続けることしかできません。

 ただ、支援職全体のレベルが上がれば、どこに行っても、その人にふさわしい対応をされ、少しでも楽になる、といった事になるのに、と生意気ですが、自分の分を超えたことまで考えたりはします。

 そんなことを考えるときに、医師でないとしても、この本の事例は、失敗も含めて伝えてくれているので、より参考になるように思います。

「大人の発達障害」

 「発達障害」が、これだけ語られるようになり、今は、「大人の発達障害」という言葉まで一般的になりつつあります。本来ならば、この言葉は、意味としては矛盾しているはずです。「発達」は、生まれてから成人になるまでの時期を指すわけですから、「大人」は「発達」が一応は終了しているので、「発達障害」になることはないとも考えられます。

 ただ、今は、そんなことを言う人はほとんどいません。あちこちで「大人の発達障害」という言葉が聞こえてきます。それは、本来ならば、「成長の時点」での「発達障害」があったのに、環境など、様々な要素に恵まれたおかげで、「困ったこと」になっていなかったのが、大人になってから、社会や環境の変化により、「発達障害」として認識されるようになり、その時に「大人の発達障害」という言葉が使われるのだと思います。

高齢者と「大人の発達障害」

 その使用頻度が多くなると、高齢者に対しても、「認知症」だけでなく「大人の発達障害」ではないか、という言葉が向けられるようになりました。

 個人的には、長年生きてきて、本当に晩年になって「発達障害」と言われるのは、ご本人には、かなり厳しいのではないかと想像します。それに、現在の高齢者には「発達障害」という概念自体が飲み込みにくいと思われますし(というより、誰であっても、自分自身や、自分の家族が「発達障害」と言われることを、本当の意味で「受容」することはできないのかもしれません)、「大人の発達障害」という診断名がついても、あまりメリットがないように思います。

 さらには、「大人の発達障害ではないか」といった視点が最初にあると、それに当てはまるような特徴を探すような見方になり、そのことによって「やっぱり大人の発達障害ではないか」といった気持ちになったとしても、支援をする場合には、かえってマイナスにならないでしょうか。

その人自身を、よく見ること

 それよりも、とても難しいですし、手間もかかるのですが、その人自身をよく見て、聞いて、考え、その人は(本人の責任ではなく)、どうしても、そのような言動をとらざるを得ない人と判断し、そのことに対して、適切な対応を考える。

 もし、「大人の発達障害」という考えを採用するのであれば、「その人がどれだけ努力しても、社会の多数の人ができることが、できないだけ」といった見方のために使うのであれば、支援の際にはプラスに働くような気がします。

 偉そうな言い方になり、申し訳ないのですが、「発達障害」というラベリングに目的があるのではなく、その人自身をより理解するために、そうした考えがある。そうした思考方法を学ぶ、といった意味でも、この書籍は参考になると思いました。

 前回に続いて、同じ編者による書籍になりました。今は「発達障害」関連の本も、驚くほど多数出版されるようになりましたが、「発達障害」というものを考える際に、はずせない書籍だと思いましたので、紹介させていただきました。



(他にも、いろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、ありがたいです)。



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