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「介護books セレクト」⑨『子どもの虐待を考える』  玉井邦夫

    いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることができています。

    初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/ 公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

「介護books セレクト」

   当初は、いろいろな環境や、様々な状況にいらっしゃる方々に向けて、「介護books」として、毎回、書籍を複数冊、紹介させていただいていました。

  その後、自分の能力や情報力の不足を感じ、毎回、複数冊の紹介できないのではないか、と思い、いったんは終了しました。

   

   それでも、紹介したいと思える本を読んだりすることもあり、今後は、一冊でも紹介したい本がある時は、お伝えしようと思い、このシリーズを「介護booksセレクト」として、復活し、継続することにしました。

『〈子どもの虐待〉を考える』 玉井邦夫

 今回も1冊を紹介したいと思います。タイトルから考えると、介護には無関係に思えるかもしれません。

 大げさに言えば、この本がきっかけになって、臨床心理士の資格を取得でき、介護者相談も始めることができたので、私にとっては「人生を変えた1冊」ともいえます。

 ただ、それだけだと個人的なお勧めすぎるかもしれませんが、支援を考える際に、十分、参考になるとも考えましたので、紹介させてもらうことにしました。

個人的な事情

 臨床心理士になるには大学院を修了しないと、資格試験を受けることもできないことを知り、心理学の勉強をして、二度目の受験で筆記試験に合格できたあとに、この本を読みました。

 臨床心理学の大学院に入学するためには、筆記試験を通ったあとに、面接があります。それまでに、確か何日かあったので、今から考えたら不勉強なのですが、その大学の教授の著書を少しでも読んでおこうと思いました。お恥ずかしいのですが、付け焼き刃の「面接対策」です。

 何冊か読み、まだ臨床心理学のことを学び始めたばかりですから、どこまで理解できたのか分かりませんでしたが、その中でも印象に残ったのが、この「〈子どもの虐待〉を考える」でした。


 ここに至るまで、私自身は、介護離職をして、介護に専念して10年ほどが過ぎていました。母と義母(妻の母親)を介護していましたが、2007年に母が亡くなったので、それから義母の介護を続けながら、本格的に勉強を始めて、やっと合格できた感覚でした。

 そうした時間の中で、いろいろなことがあり、自分の気持ちの中に、説明し難い怒りのようなものも、存在しているのは自覚していました。

 そんな屈折した思いがある中年男性でしたが、この本を読んで、この著者が、大げさに言えば、「冷静な知性と、温かい心」を両立させている珍しい人に思えました。ただ、面接には何人も教授がいたのですが、この玉井先生は、いませんでした。

 面接が終わった時には、合否の基準が分かりませんでしたが、なんとか合格でき、大学院で学び始めました。そして、学生が自分の希望を出せるのが、修士論文のゼミの指導教授でした。

 私は、迷いなく、第一志望を玉井先生と書かせてもらい、その希望は叶いました。

「虐待してしまいそうな不安」を抱える親の気持ち。

「〈子どもの虐待〉を考える」の本の話に戻ります。

 この書籍で、最初に感心をしたのが(偉そうで、すみませんが)、虐待してしまうかもしれない、という不安を抱えた保護者に向けてのメッセージがあることでした。

 それも、そういう不安を抱えているであろう、当事者を想定して書かれた文章でした。私自身は、子供もいませんから、そうした当事者ではありませんでしたから、本当の意味での理解はしてない可能性もあります。

 それでも、とても丁寧に、あなたは悪くない、ということを、伝えているように思いました。

 私自身は、母親と義母の高齢者の介護をしている家族介護者でした。その頃、介護殺人を不幸にもおこなってしまう介護者は、男性が多い、という統計から、「男性介護者は危険」という見られ方をしているのも知っていました。

 そんなふうに見られること自体が、微妙な苦痛でした。

 少なくとも、そう思われ、見られ、なんとなく見張られているような気配になることで、精神的な負担が増えることはあっても、減ることはないのに、どうして、「危険」みたいなことばかりが言われていて、その支援を手厚くする、といった言葉は出てこないのだろう、と思っていました。

 それだけに、高齢者虐待ではなく、児童虐待のこととはいえ、虐待をしてしまうかもしれない、という保護者側へ、きちんとした支援の姿勢を示してくれる専門家の存在は、ありがたく感じたのだと思います。

 児童虐待が問題であれば、保護者側高齢者虐待が増大する可能性があれば、介護者側への支援を考える。そうした視点も大事にする、という姿勢は、今でも十分以上に有効なことだと思います。

「虐待された過去を持つ子ども」

 さらに、「〈子どもの虐待〉を考える」で、印象に強く残ったのは、虐待された過去をもつ子どもたちの行動について、でした。

 いわゆる「試し行動」も、詳細に表現されていました。

 それは、過去に虐待の経験を持つ子どもが、新しく保護者的な立場になった人に対して、本当に、この人は虐待をしないだろうか怒りを向けてこないだろうか。それを試すような行動をする、ということでした。

 もしくは、それまで、優しくされることがなかった場合は、丁寧に接せられることで返って不安になり、目の前の大人に対して、怒らせるような行動をしてしまい、その結果として、相手が怒った方が、不安が減るという心理状態のようでした。

 そのことを、その行動をせざるを得ない環境も含めて書かれているため、いわゆる「試し行動」が、「問題行動」というよりは、それまでの過酷な環境によって、強制させられている行動のように思えました。

 そのような視点から、さまざまなことを考えた方が、当事者に届く可能性のある支援ができるのではないか、と感じました。

 児童虐待に関しては、私は専門ではないのですが、それでも、こうした視点は、今も参考にできますし、最初に、こうした視点から被虐待ということを考えられたことは、表現は不謹慎かもしれませんが、個人的には、かなり恵まれていたことではないかとも思っています。

臨床心理士として学んだこと

 個人的な事情に、再び、戻りますが、私は大学院には、3年間通っていました。
 修士論文の完成に苦戦し、通常は2年のところが、3年かかってしまったからです。
 
 この間も、指導教授である玉井邦夫先生には、辛抱強く指導をしてもらい、あらゆる意味で論文らしい方向へ矯正するよりは、最終的には、私の長所を生かすように、と配慮してもらいました。

 それは、より手間がかかる指導方法ではあるとは思うのですが、そのおかげで、無事に大学院も修了もできて、臨床心理士の資格を取得することもできました。

 もし、もっと違った環境にいたら、本当にそこまで辿り着けたかどうかは、分かりません。そうであったら、その後に公認心理師の資格も取れなかったと思いますし、介護者支援に関わることもできませんでした。

 そのくらい、玉井先生には恩があると思いますが、いろいろなことを学んだ中で、傾聴に関しては、あれから10年くらい経っても、よく思い出します。

 傾聴というのは、受け身ではない。
 相手のことを、相手よりも理解しようとして、聴くこと。

 私自身は、共感能力に自信がなく、40代になって臨床心理学を学び始めたのですから、今でも、若い時から学び、実践を重ねた方々には、かなわない思いはありますが、傾聴について、教えてもらったことは、できるかどうかは別としても、心がけるようにしています。

変わらない印象

 歳をとるほど、自分のことは棚に上げて、人への見方が厳しくなったり、私のように屈折したりすることはあるとは思うのですが、「〈子どもの虐待〉を考える」を読んでから、「とても高い知性と、温かい心」を持った人だという、玉井邦夫先生への印象は、10年以上が経っても、変わっていません。

 こうして、名前をあげることも、ご本人は好まないので失礼とは思うのですが、他の著書もありますし、現在、「月間 発達教育」という専門雑誌での連載も続いていますので、介護とは直接関係ないかもしれませんが、支援の姿勢という意味では、手に取っていただく価値はあると、思っています。


 私としては、学んだことを十分に生かしているのか、と問われれば、まだ恥ずかしい段階ではあるのですが、どんな状況であっても、自分の心の動きを正確に把握しようとし、その上で、相手のことを考え、推察し、支援しようとする姿勢に、少しでも近づけるよう、こらからも努力を続けようと、思っています。




(他にも、いろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。



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