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【創作大賞2024】プロローグ_「感染」_ミステリー小説部門


『セックスしたらコロナになりました。』


《 あらすじ  》 

「近所で買い物したくらいです」

 3年前の春、まだワクチンが開発されていなかった日本はコロナに怯えることが当たり前でした。

 ニュースでは毎日、感染者数と死亡者数が伝えられ、自粛ムードで街も電車もガラッガラ。マスクをしても人と交わることが許されなかった当時、感染は都心に限られ、郊外にある私の街には届いていません。

 そんなある日、市内でたった6人しかいない感染者になった私。
 潜伏期間に周囲を濃厚接触者にして震え上がらせた私。
 健気なシングルマザーを装う私。
 高齢の両親を殺しかけておきながら、「近所で買い物したくらいです」と言い張る私は、一体どこで何をして感染したのでしょうか。

 犯人は毒親か、はたまた毒娘か。


プロローグ『感染』


 二〇二一年四月、私はコロナに感染しました。そのころ、感染の波はまだそれほど広がっておらず、東京都内など、一部の都心にとどまっていました。首都から電車で三十分ほどの街に私は住んでいました。この日、市内で感染した人はたったの六人。私はその中の一人でした。
 


【母のこと】
 自宅で自営業をしていた母は、私のせいで濃厚接触者となり、二週間の休業を余儀なくされました。ちなみに、体調は良好で未検査だった母の立場は、その時点で単なる濃厚接触者の一人に過ぎません。にもかかわらず、彼女は自分のお客さんたちに「下の娘がコロナに感染して、自分も濃厚接触者になってしまったため、しばらく営業できません。私はこれから検査をします」と正直に、包み隠さず情報を伝えたのでした。

 このことがきっかけで、私は近所中に感染したことがバレることになります。
 それは同時に、「遂に身近で感染者が出た」という緊張と恐怖を周囲にばらまくことになります。

 私には、母の行動が理解できませんでした。まだ自分が感染しているかもわからないタイミングでこの連絡をすれば、聞かされた人たちは(特に母と接触した人たちは)、ひょっとすると自分も感染しているのではないかと心配になります。しかも、母の検査結果が出るまで、その不安はなくなりません。なぜ、せめて自分の検査結果が出るまで詳細を伏せなかったのか――、不確かな状態で情報開示することによりどれだけの人を恐怖に巻き込むことになるのか――そのことが想像できない母のことを、私は全く理解できませんでした。


 母はよく「正直でありたい」と言っていましたし、私にも「ウソをつくな」と教育しました。ですが、そこはウソをついた方が良いのではないか、ウソをつくというよりは自分の胸にとどめておくという意味で、何でも正直に話せば良いという問題ではないと、私は思っていました。
前々から少し疑ってはいたけれど、母はきっとバカなのだと思いました。

 
【父のこと】
 父親は、私の子供と何度も遊んでいたので、自分も感染したことを覚悟したのではないかと思います。私が病院で検査している間も、父が子供を預かってくれていました。年金生活で仕事はしておらず、もっぱら私の子供と遊ぶことが仕事のような生活を送っておりました。私が感染したことがわかったとき、恐らく父は自分も感染していることを覚悟したのではないでしょうか。病院からの結果を聞いて、父親に感染していたことを伝えると、「そうか」と静かに答えました。普段からとても冷静な人ではありますが、動揺している様子も見受けられました。

 「母が近所の人に連絡してしまっている」と父に伝えたところ、「仕事だから仕方ないのではないか」と返答がありました。

 私は、父もダメか……と思いました。
 母と同じで、父もバカなのかと想像しては、かなりがっかりしたことを覚えています。
 

【姉のこと】 
 姉からの連絡があって、私は初めて、感染していることが姉にもバレていることを知りました。どうやら母は、その日のうちに姉にも伝えたようでした。姉の娘が一度実家に来たときに、私の子供も実家にいたことがあったそうで、二人が接触したことはなかったけれど、伝えた方が良いのではないかと考えた母が、姉にも連絡したようです。
 
 姉から「大丈夫なのか」「どんな状態なのか」「子供には移ってないのか」「子供の検査はいつするのか」「子供の学校はどうするのか」と大量の質問が送られてきました。
 
 私はとても迷惑だなと感じていました。濃厚接触者でもないのに、なぜ答えないといけないのだろうと思っていました。たとえ、両親が感染していたとしても、この時点で何の症状も出ていないし、私はすでに感染していてかなり体調が悪いのに、なぜ体調の悪い私にこんなに質問してくるのだろうと不思議でなりませんでした。
 

 ひょっとするとこの人もバカなのかも知れないと頭をよぎりました。

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門


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