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【創作大賞2024】第19章_「私の手記 ②」_ミステリー小説部門

『セックスしたらコロナになりました。』


第19章 私の手記 ②


 私はただひたすら、彼らと距離を取りました。
 
 息子の誕生日をきっかけに母親との連絡をブロックしてから、父とも母とも姉とも交わらないように注意しました。
 母と姉から受け取った誕生日プレゼントは、なかなか開けられませんでした。現金ならばすぐに開封して使うつもりでしたが、そのプレゼントはどう見ても大きすぎました。それを開封したらなにか自分の決意が揺らいでしまいそうな気もして、そのまま本棚の上に置いておくことにしたのです。それは丸くて柔らかくて、なんとなく中身が透けて見えてしまいました……、だからよけいに開けるのが怖くなったのかも知れません。

 私は自分自身をひどい娘だと思いました。
 すべては自分が悪いのに、コロナに巻き込んだのは私自身なのに、謝るべき立場にいるのも、寄り添うべき立場にいるのも、きっと私の方なのだということはわかっていました。そうはわかっていても、私は自分の心を強く持とうと思いました。

 決して迎合してはいけないと何度も自分を鼓舞しました。
 私は極悪人だし、加害者だし、殺人者だし、ダメな娘で、ずるい妹で……、それでも良いから、何の弁解もしないから……、だから彼らと離れようって……。

 私はこうして、心を通わせることをやめたのです。
 通わせちゃいけないのです。通わせたら……通わせたら飲み込まれてしまうから――。母の愛に、姉の寂しさに、父の冷たさに……、私は飲み込まれてしまうから――。

 相手が家族であったとしても、どれだけ大切な人だったとしても、自分を愛してくれたとしても、愛していると言ってくれても、自分を殺そうとする人を簡単に許してはいけないのです。
 どんなに合理的な理由に基づいていても、どんなに自分が悪いとしても、どんなに相手が正しいとしても、法律が私を裁こうとしても、自分を追い込む人からは全力で逃げないといけません。そうしないと、殺されてしまうから――。

 私は彼らに対して迷惑を掛けたことは認めたとしても、自らの行いを悔い改めまることは絶対にしませんでした。

 私は彼らとは別の世界に生きていて、彼らと私とは違う人間なのだから――、私はそこに巻き込まれることはありません。

「この人たちを甘やかさないで下さい」

 私は私にそう訴えると、静かに境界線を描きました。

 そして、これからも絶対に、コロナに感染した理由を明かすことはやめようと心に決めました。
 

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