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【創作大賞2024】第3章_「感染ルート」_ミステリー小説部門



『セックスしたらコロナになりました。』


第3章 感染ルート 


 病院で感染ルートについて質問を受けましたが、私は「どこにも行っていません」と答えました。スーパーへ買い物に行ったことと、実家へ行ったことくらいです、と。


 医師は「お子さんが学校でもらってきて、無症状のままお母さんに移したのかも知れないですね」と言いました。私はその見解に安心しました。
 
【父のこと】
 
父は、「子供が先に感染するわけがない」と感染ルートについての推理を始めました。飲みにでも行っていたのか、どこかでもらってきたのではないか、と言いたげでしたが、私は何も言いませんでした。
 
 私はそのころ体調が悪く、ギリギリ起き上がってどうにかパソコンで仕事をしている状況でしたが、私の体調よりも感染ルートに興味を示す父に、人間の病みを垣間見てしまったのです。

 「名探偵コナンか」と、小さな声で突っ込みました。そうでもしないと、少しでもコミカルな音を発さないと、推理をたしなむ父親の、大きな邪気に飲み込まれてしまいそうで怖かったのだと思います。

 この人は温度がない、冷たい人だと感じました。もしかすると、問題の原因を追及して、そこに合理的な理由がない限り、相手に同情できないのかも知れないと想像しました。それから、その同情の量に応じて協力の量も調整するつもりなのかも知れないなと思いました。
 

【母のこと】
 
母も、「子供が先に感染するわけがない」という父の推理に同意しました。離婚したときと同じように、どうせ非常識なあなたがどこかへ行って、うっかりもらってきたのでしょうと言いたげでしたが、私は何も言いませんでした。代わりに、「こっちは金田一少年か」と一人つぶやきました。

 迷惑を掛けるなということを言い続けていた母は、娘が迷惑を掛けた理由が少しでも仕方のないものであってほしいと願っていたのでしょうか。そうだと推測するには、彼女の口調はあまりにも猜疑心に満ちていたように思われてなりません。娘が不可抗力によって感染したことを祈るよりも、どうせまた自業自得なのでしょうと、そちらの可能性を願ってやまないようなそんな屈折した期待が感じられたのでした。

 
【姉のこと】
 
姉からのメールは開いていなかったので、彼女から感染ルートについて質問を受けているのかということ自体、私にはわかりませんでした。最初の段階で質問を受けた際、「体調はあまりよくない」と答えたところ、「熱はあるのか?」と返ってきました。心配させないために、「それほど深刻ではない」と返すと、「子供の学校はどうするのか?」と切り口を変えて返ってきました。こちらとしては穏便にやり取りを終わらせるために工夫を凝らして文章を送っているにもかかわらず、まるでその意図だけは無視するように新たな疑問文が送られてくるのです。そのうち、相手をするのが億劫になってこう返すことにしました。

「バタバタしていて、連絡しなくてごめんなさい」
 一応、迷惑を掛けているのでマナーとして謝罪したのですが、そこには、これ以上連絡をしないでほしいという強い気持ちが込められていました。

 しかし、そんな期待とは裏腹に、それに対してもすぐに二通も三通も連絡が来るので、いつしか彼女からのメッセージは開封しないようになっていました。彼女からの問い合わせは、果たして今、必要なのかと問いたくなるような刹那的な質問が多く、いちいち対応することに意味が見出せませんでした。

「こういう女……、いるな……」
 私の頭に、メンヘラというコトバが浮かんでいました。それと同時に、私もかつて、どこかの男にこういう一方通行なコミュニケーションをした気がするなと思い出しては、懐かしさと罪悪感を覚えていました。

「ヤリ捨てとか言って、鬼電してごめん……」
 あのときの男に対して、猛烈に謝りたくなりました。
 それから、姉にはとても失礼だとは思いましたが、反応しても切りがないから、彼女からのメールはしばらくの間、開かないことに決めたのでした。

 
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