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【創作大賞2024】第2章_「家族への感染」_ミステリー小説部門


『セックスしたらコロナになりました。』


第二章 家族への感染


 両親の検査結果は陰性でした。私の子供だけが陽性でした。両親が感染していないということは、姉の娘にも感染していないということなので、親族への被害は最小限にとどまりました。
 

【母のこと】 
 自分が感染していないことがわかった母は安心したのか、お客さん全員にまた連絡をしたのでしょう。いろんな人が、心配してくれたそうですが、その周囲の善意により、よけい責任を感じたのかも知れません。

 私に対して、「たくさんの人に迷惑を掛けたね……」と、何度も言ってきました。私が買い物に行けないので、ご飯をわけてくれましたが、そのタッパーには「これ以上迷惑を掛けないで」と書いてありました。なにかうっとうしいので、「別にご飯はいらないです」と言うと、「これ以上迷惑を掛けるな!外に出るな!」と返ってきました。

 周囲に迷惑を掛けたと言うけれど、母が勝手に言いふらすからでしょうが、と思っていました。
 検査結果を待って、自分が感染していなかったのなら、そこまで全てをカミングアウトする必要もなかったのに……、勝手に周囲を恐怖に巻き込んでおいて、なぜ私のせいにするのだろうかと不思議でなりませんでした。

 やっぱりバカなのではないかと思いました。私の立場が全然見えておらず、自分の立場からしから世界を捉えていないように見えました。自分が正しいと思ったことが、世界の正しさだと思い込んで節が見受けられます。

 母が近所にバラしたことで、私が色々な人から問い合わせが来ていることに気がついているのでしょうか……。体調が悪いなか、この人たちに対応することがどれだけ大変なことなのか、わかっているのでしょうか……。もちろん問題を起こした張本人は私なのですが……、けれどこれだけの個人情報を簡単にばらまいてしまって……、果たして、私の子供の感染もバレてしまうリスクがあるということに気がついているのでしょうか……。
 
 彼女は何も想定せずに、自分以外の世界がどう動いているかを全く想像することもなく、ただ主観的に行動しているような印象を受けました。この人はただのバカなのか、それとも自分の身を守ろうとしているだけなのか、私にはそのどちらかにしか見えませんでしたし、いずれにしてもたちが悪すぎると感じては今後の展開にゾッとしていました。
 

【父のこと】
 
父は感染していないことにひとまず安心したようでした。母ほど、視野が狭くないし、お節介な人ではないので、誰かに何かを開示することもなく、余計なことは一切しないという感じでした。

 母に頼まれて父がご飯を分けに自宅に持って来てくれることがありました。その際は、玄関に荷物を置いて、接触することもなくすーっと立ち去って行きます。一言も交わさず、どこにも触れずに帰って行ったあと、「コロナの菌が付着しているのでタッパーは捨ててくれ」とメールで補足されました。

「おいおい、タッパーに罪はないぜ」と声に出してつぶやきました。声に出さないとやっていられなかったのです。きっと、コロナ感染者が使ったものは使いたくないという態度に、私の心が削られていたのだと思います。ご飯を分けるという善意の裏にあるどす黒い悪意を感じ取ってしまったのでしょう。
 
 偽善――。そう、偽善という行為は、こうやって人を傷つけるのだと知りました。良いことのなかにしっかりと悪いことが付け加えられる一方的な好意は、このように相手にだけ空しさを残します。何もしないよりも、何かすることで、自分を満たして、相手を損なっていく――、自分が良いことをすることで、相手が嫌な思いをしていることにこれほど盲目でいられる人間が、私は怖くて仕方ありませんでした。

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