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【創作大賞2024】第4章_「子供への感染」_ミステリー小説部門


『セックスしたらコロナになりました。』


第4章 子供への感染


 親族への感染は最小限にとどまりましたが、子供が感染した以上、子供の学校への感染が危ぶまれました。それから数日間は、保健所と学校と連携を取り、同級生の中で濃厚接触者がいるのかを確認する作業に入りました。
 
 その時点では学校内で誰も症状が出ていませんでしたが、校内での生活を調査して、息子がマスクを外しておしゃべりする時間はなかったかというところを入念にチェックすることになったのです。
 その間、母の連絡のせいで、近所の人には私が感染していることがバレていたため、子供の学校の友達からも直接、私に連絡が来ました。私の子供と仲の良かった友達のお母さんが、私の母のお客さんだったのです。その友達は我が子が感染しているかも知れないということで不安になっていました。

 私はひょっとすると、その子にも感染させているかも知れないという可能性の中で、彼らに対してできるだけ誠実に対応しなければなりません。高熱により朦朧(もうろう)とする意識の中で、慎重に言葉を選びます。

 母がばらすことさえなければ、学校側に対応を委ねられたものを……、私が感染したのだから仕方がないとは思いつつも、母の視野の狭さと想定の甘さに苛立ちを覚えました。自分だけがすっきりするために、正直に白状した母が、とても憎かったです。


 私はこの期間、ものすごい罪悪感と責任感と緊張感の中にいました。私が子供に感染させて、そのまま登校させたせいで、友達に感染させてしまったかも知れない……、そう思えば思うほど、眠れなくなりました。熱が高く頭痛がひどかったのですが、それは心労も影響しているのではないでしょうか。夜中に何度も目が覚めました。
 

【母のこと】
 母はここまでの状況をも想定して、お客さんに連絡をしたのでしょうか。「娘が感染しました、自分は濃厚接触者ですが、感染しているかはまだわかりません。私はこれから検査をします」という中途半端なカミングアウトが、どれだけの人に恐怖を与えるか、どれほどの混乱を招き得るのか、それをシミュレーションしたのでしょうか。

「わからない」という不透明な状況で誰かになにか伝えて良いことなど、ほとんどないのではないでしょうか。その状況で伝える時は大体、自分が楽になりたいからではないでしょうか。
 それを知らされた相手の気持ちをなぜ想像できないのか……、なぜもう少し待つことができないのか……、私は母に対して、強烈な苛立ちを覚えていました。
 正直に話すことが良いことだという視野の狭い正義感に、一体どれだけ振り回されてきたことか……、これまでの四十年間を顧みては、イライラとしました。それは怒りというより、後悔のような感情に近いものだったと思います。

 
 なお、後日談にはなりますが、調査の結果、息子の濃厚接触者はいないということになりました。誰にも感染しませんでしたし、クラス全員検査という事態や、学級閉鎖になるようなことは何もありませんでした。ただ息子が一定期間、学校を休んだだけで済みました。
 
 それがわかってからの私は心底、安心しました、結果オーライと言えばそれまでですが、それでもここまでの数日間の心労を思うと、母の行動には多大なストレスを感じていました。

 何もないところに、何か問題を作っていくような性質が母にはありました。ものごとを自分勝手に解釈して判断しては、独りよがりに行動を起こすトラブルメイカー。こういう人種は「良かれと思って」という免罪符を片手に、半径三メートルに臭い善意を振り撒きます。

 
 そして最もたちの悪いことに――、臭気をばらまいていることに本人だけが気が付いていないような、なんの自覚も罪悪感も持たないような、真っ白な無邪気さがあるのです。その透明感こそが、私をとにかくイライラさせました。
 あるいは、イライラしているこちらの方が悪人のようになる構図にもイライラしました。なぜ迷惑を掛けられたこちらが罪悪感を持たなくてはならないのか――、不条理に絶句しては、子供のような無邪気さへの苛立ちを積み重ねたものです。

 無知であること、無垢であること、純粋であることは、裏を返せば大きな地雷になり得るのだと、私は母から学びました。
 

 
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