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おきにいりの本棚

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尊敬するnoterさんの、好きすぎて何度も読みたい!!noteたちです。
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#ショートショート

小説|コーヒーが冷めるとき

小説|コーヒーが冷めるとき

 おばあさんは眠るまえにコーヒーを飲みます。「眠れなくなるからやめなさい」とおじいさんは毎日のように言いましたが、おばあさんはやめません。「うまいんだから仕方ない」

 近所の人に会ってもあいさつをしないことも、お医者さんに止められているのにお酒を呑むことも、めんどうでお風呂に入らない日があることも、おじいさんは何度も注意しましたが、おばあさんは聞きません。

 おじいさんはとつぜん亡くなりました

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【#シロクマ文芸部】もう少し先まで

【#シロクマ文芸部】もう少し先まで

透明な手紙の香り。姫が透明な手紙の香りが欲しいと言い出した。

最初は相手にしなかった王様とお后様だったが、香りを欲してさめざめと泣く姫を見ていると胸が痛くなった。

「透明な手紙の香りを我の元に届けた者を姫の夫とする」

王様の発した鶴の一声に若者が色めき立った。
姫様は国内外に知れ渡るほどの美貌の持ち主だったからだ。

「これです!これが透明な手紙の香りです」

大貴族の息子がうやうやしく両手

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【#シロクマ文芸部】ポロポロポロ

【#シロクマ文芸部】ポロポロポロ

手渡されたのは光る種。

「いいよ」
そういう私に
「もらってよ。後で役に立つから」
と伯母に手渡された。

苦しそうな声で電話がかかってきた。
伯母の家まで1時間半。
「そのままで。絶対動かないで」
と家を飛び出す。

最悪の場合を考えながらドアを開けるとグッタリと横になった伯母がこちらを見て笑っている。

「お腹空いたでしょ。お昼用意しなくちゃ」

なんでこんな時まで、と言いそうになるのを押さ

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小説|ネズミと彼女の戦記録

小説|ネズミと彼女の戦記録

 十月某日。近所のチーズ専門店が潰れて薬局になった日から、家のなかに小さな気配を感じる。気のせいだと思いたかったが、今日、お風呂から出たあと、居間で細長いしっぽを見てしまった。始まる。私と奴との戦いが。

 十月某日。仕事が終わらず遅く帰った夜も奴が駆ける音がする。しかけたネズミ取りには私のお気に入りのモコモコスリッパが挟まれていた。奴め。私をからかっていやがる。この戦い、最後に笑うのは私だ。

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小説|怪物とおむすび

小説|怪物とおむすび

 黄昏どき。茜色に染まった電車が走ります。混み合った車内には、空席がひとつ。それは怪物が座る席のとなりでした。誰も横へ座ろうとしません。怪物のため息に驚き、周りの人が少し離れます。電車は駅に停まりました。

 水色のポシェットをかけた少女が乗車してきます。人々の隙間を縫って、少女は空席の近くまで来ました。怪物の鋭く紅い目と少女の目が合います。ポシェットを下ろし、少女はためらうことなく怪物のとなりへ

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小説|創作物を食べる怪獣

小説|創作物を食べる怪獣

 土が硬く作物の採れない国で怪獣は暮らしていました。作物の代わりに、怪獣は創作物を食べます。人々は飢えに苦しみながらも遊び心を忘れずに、小説や詩や俳句、絵や曲や写真やエッセイを創り、怪獣に分け与えました。

 怪獣は食べたものを大声でほめてくれるので、人々は喜んで創作物を贈ります。彼らは仲良く暮らしていましたが、ある日、怪獣はお腹を壊します。創作物と間違えて、人々が蓄えていた、なけなしの作物を食べ

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シロクマたちの居場所

シロクマたちの居場所

ある日、ボクは一匹の不思議なシロクマと出逢いました。

シロクマのことは、図鑑やテレビで見たことがあるくらいです。

知っていることと言えば、白くて、大きくて、近い未来に絶滅してしまうかもしれないこと。 

そんな彼がひとり、なぜここにいるのか。 
ボクは興味本位で観察を始めました。

彼は毎日同じような時間になると、フラッと姿を表し、集まった仲間たちに手作りの物語を聞かせては帰っていきます。

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招待状

招待状

クタクタに疲れやっと帰宅
ポストから取り出した郵便物確認していると
1通の手紙がやたら冷たい
濡れてないのに氷のようだ
差出人は?

ん??
「ペンギンからの招待状」
なんだこれ…
とりあえず開封したらそこには

ハローペンギンからの招待状だよいつもありがとう!!お礼を伝えたくてパーティー開くんだ

イタズラか?
困惑しながら続き読むと

遊びに来てくれるなら今晩枕元へ靴下置きこの手紙入れてね一緒

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贅沢な遊び ほのラジ楽屋話

贅沢な遊び ほのラジ楽屋話

 あまり面白くないB級映画を見て「時間の無駄」だと思うか、その退屈な映画を作った人たちに思いを馳せて、その退屈ささえも愛でるのか。

「退屈を味わうことが贅沢な遊び」だと、先日読んだ本の中で信頼する作家さんが述べている。

 同様に、「?」となるような、何度読んでも意味がわからない、最初から意味なんて存在しないような不条理な物語もやはり「贅沢な遊び」ではないかと思っている。

 為になることや名言

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門番猫 後編

門番猫 後編

 私の混乱をよそに、目の前の猫がオブジェの隙間の中に入って行った。まったくもって猫というのはマイペースでそこがまた魅力的だな、なんて考えている余裕はなかった。ただオブジェの隙間の空間が歪んだのを見たと思った時には猫はその場から消えてしまった。

「はやくこい」

 今入っていった隙間からさっきの声がする。

 恐る恐る隙間に近づいたとたん、私は前後左右を失い、まるで高所から落下するみたいに吸い込ま

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【ピリカ文庫】海【ショートショート】

【ピリカ文庫】海【ショートショート】

 ノボルは妹からの電話を思い出していた。

「最近お母さんの物忘れが凄いの。お兄ちゃん全然顔見せないねって泣くんだよ」

「一昨日そっちに行ったばかりなのに?」

「そう。だからお兄ちゃん一昨日来たんだよって教えると、そうだったねって思い出すんだけど…」

 高齢で病気の母の面倒を看ながら一緒に暮らしてくれてる妹のお陰でだいぶ助かっているな、とノボルは申し訳なく思う。

「じゃあ今度海にでも行って

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小説|昨日の自分を撫でる夢

小説|昨日の自分を撫でる夢

 一日の疲れがあなたの身体を重くします。なにも、やる気が起きません。ベッドに倒れ込みました。うつ伏せで目を閉じ、あなたは眠りにつきます。今日あった嫌なことを夢に見ないように願いながら。

 あなたは、あなたに会いました。夢の中です。あなたはそれが昨日の自分だと知っていました。おぼつかない足どり。こちらへ歩いてきます。目もとにはひどいクマがありました。疲れ果てているのがよく分かります。

 あなたが

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