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小説|怪物とおむすび

 黄昏どき。茜色に染まった電車が走ります。混み合った車内には、空席がひとつ。それは怪物が座る席のとなりでした。誰も横へ座ろうとしません。怪物のため息に驚き、周りの人が少し離れます。電車は駅に停まりました。

 水色のポシェットをかけた少女が乗車してきます。人々の隙間を縫って、少女は空席の近くまで来ました。怪物の鋭く紅い目と少女の目が合います。ポシェットを下ろし、少女はためらうことなく怪物のとなりへ座りました。

 息を飲む乗客の視線を気にも留めず、少女は手を膝の上に置いて姿勢よく座っています。「勇気あるな」と怪物。「何で?」と少女。「恐いだろう」「何が?」「俺の姿さ」「ひとは見た目じゃないってママが」

 怪物は笑った拍子に腹を鳴らします。「お腹が減ったの?」と訊く少女。照れる怪物。少女がポシェットから取り出したのはアルミホイルに包まれたおむすび。「私の手作り。美味しいよ。ちょっと見た目は悪いけどね」






ショートショート No.205

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