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小説|ネズミと彼女の戦記録

 十月某日。近所のチーズ専門店が潰れて薬局になった日から、家のなかに小さな気配を感じる。気のせいだと思いたかったが、今日、お風呂から出たあと、居間で細長いしっぽを見てしまった。始まる。私と奴との戦いが。

 十月某日。仕事が終わらず遅く帰った夜も奴が駆ける音がする。しかけたネズミ取りには私のお気に入りのモコモコスリッパが挟まれていた。奴め。私をからかっていやがる。この戦い、最後に笑うのは私だ。

 十月某日。連日の残業で疲れているのに、敵は元気いっぱいだ。しかけた毒エサが私のお気に入りのお皿に盛られて、ご丁寧にラップまでかけられている。お前が食えと? いつか必ず十二支から追い出してやる。

 十月某日。過労で仕事を休んだ。夜、お風呂場へ行くと買った覚えのないバスソルト。薬局のシールが貼られている。久しぶりに私は笑った。十二支から追い出すのはやめてやろう。奴め、敵に「塩」を送ったつもりか。






ショートショート No.253

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