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小説|コーヒーが冷めるとき

 おばあさんは眠るまえにコーヒーを飲みます。「眠れなくなるからやめなさい」とおじいさんは毎日のように言いましたが、おばあさんはやめません。「うまいんだから仕方ない」

 近所の人に会ってもあいさつをしないことも、お医者さんに止められているのにお酒を呑むことも、めんどうでお風呂に入らない日があることも、おじいさんは何度も注意しましたが、おばあさんは聞きません。

 おじいさんはとつぜん亡くなりました。老衰です。お通夜にはたくさんの人が集まりました。けれど、おばあさんは誰にもあいさつをせず、部屋の片すみでお酒を飲み、みんなが帰ったあとお風呂にも入りませんでした。

 おばあさんは暗い寝室にひとりきりです。コーヒーから立ち上る湯気は、電灯のオレンジ色に染まりました。おばあさんはコップに口をつけます。一口だけ飲み、枕もとにコップを置いて、おばあさんは電気を消しました。






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