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短編小説

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2024年6月の記事一覧

電車の中/あるエピソードとそこから生まれた物語

電車の中/あるエピソードとそこから生まれた物語

 今でもずっと羨ましいエピソードがある。
 十年以上前だが、新聞で読んだ読者からのエッセイを掲載する投稿で、と 
 ても印象深く残っているものがある。
 あるご婦人がご主人とのエピソードを綴ったお話なのだが、こんなことあ
 るんだと笑ってしまうと同時に、人間的で「なんだかいいなあ」と思わず
 呟いてしまいました。全文は記憶していませんが、大まかに説明するとこ
 んなお話です。
 ご夫婦の姪っ子さん

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(短編小説)昼下がりの男たち 

(短編小説)昼下がりの男たち 

 
 6月の土曜日の昼前のことだった。
 妻が突然「お腹が痛い」と訴え、ダイニングテーブルに掴まりながらしゃがみこみ、唸り声を漏らすと、しまいに蹲ってしまった。救急車は近所に迷惑掛けるから嫌だと言うので、僕の車で一番近い総合病院に連れていった。
 痛みが強いので救急で診てもらった。血液検査のあとにCTも撮ったりと、検査結果が分かるまで3時間以上掛かった。痛みの原因は胆管に石が詰まっていた胆嚢炎だっ

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(短編小説)河童の子

(短編小説)河童の子

「やれやれ。コーチに頼んでなんとか練習抜けてきたよ。大事な話ってなんだい。母さんまで揃ってさ。明日から遠征だから手短に頼むよ」
 周平は三ヶ月ぶりに実家に戻ってきた。父親からどうしても話したいことがあると呼び出されたのだ。温和な父親は寡黙な人で、滅多に連絡など寄越してこない。その父親から『なるべく早く帰ってきてほしい』と繰り返しメールが届けば、何事かと思う。
 しかし中々戻れなかった。なぜなら周平

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(短編小説)王冠

(短編小説)王冠

ここは風見鶏王国。王様の風見鶏は今日も国民を集めて演説していました。
みな眩しそうに王様を見上げています。
王様はおしゃべりが大好き。聞き惚れてる群衆を前に舌が回ります。
この国が他と比べてどんなにいい国なのかとさんざん言い聞かせたあとは
王様が作ったお話もしてくれます。
いつも拍手喝采。みんなも王様も満足して集会が終わりました。
すると「やあ王様」と一羽のカモメが屋根に止まりました。
黄色い嘴に

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(短編小説)目撃者

(短編小説)目撃者

 木野和也は恋人の理央と先月開店したばかりの大型ディスカウントストアに来ていた。全部を見て回ったら、おそらく一日がかりになるだろう広い店内は、食料品から日用品、寝具や家電まで何でも揃っていて、おまけに安い。婚約中で、新しい物件を探していた二人にとって、生活必需品が一ヶ所で手に入るこの店はこの上なく魅力的だった。
「近くにこんな所があったら便利だわ。何でもあるし、夜の九時まで営業してるから、仕事終わ

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