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葬式仏教の研究

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葬式仏教という日本の仏教のあり方を通して、日本の仏教の仕組みをあきらかにします。 高邁な教えから見た仏教ではなく、普通の人が仏壇やお墓に手を合わせるという、人の営みとしての仏教…
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#葬式仏教

21 インテリ視点でしか語られてこなかった仏教/日本の仏教が葬式仏教になった理由②

21 インテリ視点でしか語られてこなかった仏教/日本の仏教が葬式仏教になった理由②

 仏教には、三つの担い手がいる。

 第一の担い手は、仏教のエリートである。宗派の中で、専門に教学(宗派の教えを研究する学問を教学という)を研究している人、修行を専一に行っている人、あるいは宗派の指導者などである。

 現代では、教えを研究する僧侶は、宗派の研究機関に属していることが多い。ほとんどの宗派が、教学部など、教えを社会に適応させるためのセクションを持っていたり、教学研究所のような研究

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20 鎌倉時代に仏教が広がったという誤解/日本の仏教が葬式仏教になった理由①

20 鎌倉時代に仏教が広がったという誤解/日本の仏教が葬式仏教になった理由①

 「日本仏教の歴史の中で、一番、仏教に勢いのあった時代は?」と聞かれたら、十人が十人、鎌倉時代と答えるだろう。
 何しろ、鎌倉時代には、たくさんのスターが仏教界に生まれ、活躍をしていた。法然に始まって、親鸞、栄西、道元、一遍、日蓮など、仏教にあまり興味が無くとも知っている名前ばかりである。
 歴史の教科書を見ても、やはり鎌倉時代が重要視されているのがよくわかる。
 高校の日本史教科書の中で、最も使

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19 供養のメカニズム/葬式仏教の世界観⑥

19 供養のメカニズム/葬式仏教の世界観⑥

 供養という考え方も、葬式仏教を葬式仏教たらしめている重要な概念である。

 辞書によると「三宝(仏・法・僧)または死者の霊に諸物を備え回向すること」(広辞苑)とあるが、一般的には故人があの世で安らかでいることを祈る行為を供養と呼んでいる。

 ただ仏教における供養は、単に祈ることではない。我々生きている者が、この世で良い行いをして徳を積み、その徳を、あの世にいる故人に送るという仕組みになっ

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18 亡くなった人とつながる物語/葬式仏教の世界観⑤

18 亡くなった人とつながる物語/葬式仏教の世界観⑤

 死というものは、とても不幸な出来事である。それは、死にゆく本人にとっても、遺された私たちにとっても同様である。

 自分が死んでいくことに冷静でいられる人はいない。自分自身が存在しなくなるという恐怖、死に至るプロセスの中での肉体的精神的な苦痛、もう大切な人たちと一緒にいられなくなるという孤独、この世に置いて行く家族の行く末の心配。こうした事柄がいっぺんに押し寄せてくるのが死なのだ。

 遺

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15 目連の物語/葬式仏教の世界観②

15 目連の物語/葬式仏教の世界観②

 このお盆であるが、仏教的には、盂蘭盆経というお経がもとになって始められたと考えられている。そこで語られているのは、お釈迦さまの弟子である目連を主人公とした物語である。

 目連は、神通第一と呼ばれていて、弟子の中でも、神通力に優れているお坊さんである。

 ある時、目連は、亡くなった母親のことを思い出し、今どこにいるのか、安らかに過ごせているのかと気になり始めた。そこで得意の神通力で母親がどこに

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14 お盆の原風景/葬式仏教の世界観①

14 お盆の原風景/葬式仏教の世界観①

 葬式仏教には、いわゆる仏教の世界観とは異なる宗教世界がある。

 仏教の教義的な宗教世界は、実に壮大な世界である。お経ごとに様々な物語や世界観が広がり、複雑かつ緻密なことも特徴だ。

 それに対して葬式仏教の宗教世界は、素朴で、感性的な世界である。日本の風土から生まれた宗教世界と言ってもいい。

 この葬式仏教の宗教世界をもっともよく表しているものに、お盆がある。お盆の期間、家庭で行われる営みは

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13 葬式仏教は堕落した仏教なのか?/葬式仏教という宗教④

13 葬式仏教は堕落した仏教なのか?/葬式仏教という宗教④

ひろさちや氏の批判 ここで、このような「なんとなくの仏教徒」に支えられた仏教は本当に仏教と言えるのだろうか、教えをあまり説かず、先祖供養に支えられた葬式仏教はほんとうに仏教と言えるのだろうかという疑問が出てくる。

 前述の通り、「日本の仏教は葬式仏教で、堕落した仏教に過ぎず、本来の仏教ではない」という考え方をする人は少なくない。むしろ、仏教に詳しい人ほど、こうした考え方を持ちやすい。釈迦の仏教、

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12 なんとなくの仏教徒が多い理由/葬式仏教という宗教③

12 なんとなくの仏教徒が多い理由/葬式仏教という宗教③


おおらかな日本人の信仰 日本には、こうした「なんとなくの仏教徒」が多いのであるが、そもそも仏教徒というのは、どのくらいいるのだろうか?

 文化庁の『宗教年鑑』令和元年度版によると、8433万人が仏教系宗教団体の信者ということになっている。日本の人口は、1億2615万人だから、人口の67パーセントが仏教徒だということになる。

 ちなみに神道系宗教団体の信者は、8721万人の信者があり、この二つ

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11 葬式仏教は本来の仏教じゃない?/葬式仏教という宗教②

11 葬式仏教は本来の仏教じゃない?/葬式仏教という宗教②

 言うまでも無いが、仏教は、紀元前五世紀頃にインドで生まれたお釈迦さまが、人生をよりよく生きるための教えを説いたことに始まり、アジア全域に広がっていった世界宗教である。

 ところが現代日本の仏教は、このお釈迦さまが説いた時代の仏教とは、かなり様相が異なっている。その最大の特徴は、人が生きるための活動より、葬儀など人の死に関わる活動に大きな比重があることである。そうした現状を象徴する言葉がある。そ

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10 ある一周忌のエピソード(山田太郎の場合)/葬式仏教という宗教①

10 ある一周忌のエピソード(山田太郎の場合)/葬式仏教という宗教①

 山田太郎は、ごく普通の会社員である。

 一年前、静岡の実家に住んでいた母親が亡くなって葬式を行った。父親は十年前に亡くなっていたので、喪主は太郎だった。

 そして今回、一周忌を行うことになった。やはり施主は太郎である。場所は、お墓のある静岡のお寺、お経はそこの住職さんに読んでもらうことになった。

 その日の朝、新幹線で東京から静岡に向かう。太郎と太郎の妻、大学生の娘の三人である。子どもは他

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7 全日仏は何と戦っていたのか?/「イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑥

7 全日仏は何と戦っていたのか?/「イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑥

 お布施をめぐって、イオンとの問題が二十二年に起き、五年後の二十七年、アマゾンとの問題が起きた。同様の問題は、それ以前もその間にもあったのだが、やはりイオン、アマゾンという巨大企業がここに関わることで、仏教界は大きな不安を感じたのは間違いないだろう。

 この二つの問題は、共通する要素が多いものの、中身を見ると、若干の相違点も見えてくる。

 まずイオンで問題になったのは葬儀であるが、アマゾン

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6 アマゾンでお坊さんを呼べる時代/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑤

6 アマゾンでお坊さんを呼べる時代/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑤

 仏教界がイオンと対立した五年後、今度は、仏教界とインターネット通販サイトのアマゾン・ジャパンとの間で騒動が起きている。

 平成二十七年十二月八日、アマゾンに、法事(年回法要)を行う僧侶を手配できるという「お坊さん便」というサービスが出品された。最初はアマゾンとお坊さんという組み合わせが新奇なこともあって、ネットニュースで取り上げられ、SNSなどで話題になっていたという程度であった。

 ところ

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5 お布施の目安は存在するのか?/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争④

5 お布施の目安は存在するのか?/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争④

 いったんここで、このイオンと全日仏の対立の論点について整理したい。 お布施というものがよくわからない、お布施をいくら包んでいいのか判らずに不安を感じる、といった意見は、以前からずっと言われてきたことである。

 金額がわからなくて不安ということだけではなく、お布施は高いというイメージもある。ただし、何が高いか安いか、ということは、主観的なところもあるので一概に言えないし、そもそもお寺によって金

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4 お布施の目安を歓迎した消費者/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争③

4 お布施の目安を歓迎した消費者/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争③

 全日仏では理事会などで、このイオンによるお布施の目安のホームページ掲載について「営利企業が、目安と言いながらも、布施の料金体系化をはかっていいのか」といった意見が出ていた。そこでさらに加盟各宗派から意見を集約した上で、ホームページ上からお布施の「目安」の削除を求める意見書をイオンに提出したのである。

 全日本仏教会の戸松義晴事務総長(当時)によると、

「布施をどう考えていいか分からないとい

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