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自作の詩篇をまとめています。 お気に入りを見つけてみて下さい。
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2023年11月の記事一覧

【詩】助手席

【詩】助手席

 緑地の道路にBMW、
 曇天の下でエンジンが吠える。
 モノクロームの空を舞う、
 蝶々の虚像を置いていった。

 助手席に座る私は、
 窓の外を眺めた。
 カーキ色の葉が哀しむ姿は、
 スピード感と共に過ぎていく。

 点々と建つ家々は、
 人の気配を感じさせない。
 生活はある筈だけど、
 見えない壁で確認出来ない。

 「私は何処に向かうのだろう」
 私は静かに呟いた。
 タイヤの回転する

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【詩】マクドナルド・ロマンス

【詩】マクドナルド・ロマンス

 家の鍵と少しの小銭、
 メモ帳とボールペンを持って、
 君と深夜のマクドナルドへ。

 コーヒーとポテトを買い、
 向かい合って席に座る。
 ポテトを一本づつ食べる君は、
 僕の愛しい人である。

 店内BGMは海外のアーティストの、
 洒落た曲を事務的に流す。
 窓から見える夜の街は、
 もう皆寝静まって光が少ない。

 君は聞く。
 「何をメモしているの?」

 僕は答えた。
 「この夜の記

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【詩】メヲミテ

【詩】メヲミテ

 目覚めてしまった。
 淀んでいくと、
 心の縁に水が垂れた。
 目覚めてしまった。
 誤ってしまって、
 甘えで糸が切れた。

 目を見て、どう?
 目を見て、ほら、
 二人の繋がりはある?
 目を見て、どう?
 目を見て、ねぇ、
 軋む音は鳴っている?

 目覚めてしまった。
 転んじゃって、
 陶器にひびが入った。
 目覚めてしまった。
 間違えてたから、
 美しい鬱になった。

 目を見て

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【詩】ミニシアターのレイトショー

【詩】ミニシアターのレイトショー

 炭酸ジュースの酸が抜ける度、
 アイラブユーが聞こえてくる。
 ポップコーンが床に落ちると、
 辺りは一面火の海だ。

 誰もいないミニシアターで、
 仕事終わりの僕は映画を観ていた。

 無名監督の知らない物語、
 下手な演技が鼻につく。
 金にもならない作品は、
 熱意だけでも価値があった。

 されど、深夜。
 リクライニングシート。
 GABAを含んだドリンクと錯覚して、
 熱意だけでは

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【詩】波の行方

【詩】波の行方

 灰色の反射し、
 音は静か。
 消えない傷に染みる、
 ナトリウムの溶液。
 波に攫われたブーケは、
 貝の粒が纏わり付いてしまった。
 不揃いの流れ雲は無視し、
 鳶の編隊は嘲笑っている。

 波の行方は誰も知らない。
 死んだ彼女の骨を撒いた、
 あの記録さえも……。
 波の行方は誰も知らない。
 投げ捨てられた卒業証書も、
 塵と化して飛んでいった。

 何にも成れない足跡は、
 もう皆に

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【詩】ある日の追想

【詩】ある日の追想

 縁側に座って日に当たり、
 柔軟剤の香りを懐かしむ。
 庭先で干された梅干しは、
 深い皺を刻んでいる。
 情けない鳩の鳴き声が聞こえて、
 ここが郊外だと再確認する。

 庭先に置かれた椅子は、
 老いた男の特等席だった。
 彼は毎晩のウヰスキーと、
 孫の笑顔が好きだった。

 ……けど、もういない。

 陽射しの弱い午後、
 青年は縁側に座る。
 ある日の追想をしながら、
 飾られたウヰス

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【詩】セシル

【詩】セシル

 ポッドキャストに耳を傾け、
 夜風に紛れたセシルは笑う。

 狐の目尻は星を見上げ、
 白い肌は冷気を透す。
 甘い香りの香水に、
 タバコの苦みが混じって巣食う。

 黒色に染まった日常、
 セシルはそれでもめげなかった。
 煙の中の輝きを探して、
 暗闇に中を歩いている。

 自分で蒔いた種なのに、
 人のせいだと思うしか無かったのだ。

【詩】同色の恋

【詩】同色の恋

 必然だったのかな?
 私は君に恋をした。

 喫茶店の日陰で本を読む君に、
 私は釘付けだった。
 文学的で哲学的で、
 少し天文学的な関係が糸の様に絡まった。
 美しい形をしたその絡まりに、
 私は「恋」という言葉を利用した。

 だけど、私は愛せない。
 君と私は同じ色。
 混ざってマーブル柄にも、
 別の色にも成れない。
 同じ色という事に、
 私は酷く己を憎んだ。

 だから私は遠くで眺

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【詩】半径50メートル

【詩】半径50メートル

 半径50メートル以内に手榴弾を投げて、
 ポッカリと空いた穴たちに反吐を投げ捨てた。

 薄気味悪い空気の中で、
 見えない恐怖が粉塵に紛れる。
 何も知らない幼子の様に怯えた眼を、
 無機質な銃声たちが掻き消した。

 戦争を反対する世の中に、
 矛盾として残酷な戦争が起こる。
 爆発だらけ、クレーターだらけ。
 数多の死さえも平等に捨てられた。

 そんな世の中に生まれた反吐が、
 爆発の後

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【詩】朝の詠

【詩】朝の詠

 砂嵐から解き放たれた時、
 僕達はそこに光を見出す。
 焦げた食パンを口にして、
 温かいスープで流し込むのは歓喜だ。

 霧は黄色、
 微睡みは常々。
 白けた視界に声は届かず、
 まだ夢心地の温もりを写した。

 「朝だよ」

 うら若き乙女の声に、
 私はハッとする。
 飛魚が跳ねる様に、
 チープでピリッとした覚醒を身に覚えた。

 ピアノの音が聴こえる。
 自動車のエンジン音が聴こえる

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【詩】人間という檻

【詩】人間という檻

 人間は「人間」という檻に囚われている。
 望んでもいないのに生命を与えられ、名前を付けられ、赤の他人に育てられながら人間となる。
 私は、それに違和感を感じた。

 それから数年も経つ。

 私は私を望んでいなかった。
 「私」という檻に囚われ、苦しい思いをしながら生命を擦り減らしている。
 こういうパーソナリティに誰がしたのだ、と時偶に思うのである。

 私は望んでしまっているのだ。
「人間」

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【詩】街灯に照らされて

【詩】街灯に照らされて

 独りぼっちの闇の中、
 街灯はポツリと輝いている。

 羽虫は脊髄のままに飛んでいて、
 感情を殺して浪費する。
 スマートフォンのバッテリー残量も、
 知識を投げ捨てて浪費する。

 独りぼっちの闇の中、
 街灯はポツリと輝いている。

 冷たいベンチの座面の上、
 黒い猫が欠伸した。
 空腹を我慢してただ独り、
 命を削って浪費する。

 独りぼっちの闇の中。
 街灯はポツリと輝いている。

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【詩】公共科学

【詩】公共科学

 風が吹く。
 海が鳴く。
 自動車が走れば火を吹いて、
 夢を見たら静止する。

 廃棄物の公共性に未来を見るか。
 毒を含んで血を断つか。
 戦闘機並の音波を背にして、
 脳死当然の日々を過ごすか。

 コンクリートの塔の下、
 蟻の軍勢に現実は針の様。
 この領域に愛は無い。
 公共科学が巡っているだけだ。

【詩】新宿

【詩】新宿

 新宿は嫌な街だ。
 何処もかしこも人がいて、
 ほんのり吐瀉物の匂いもする。

 絶望と狂乱の淵に潜み、
 アルコールとメディスンで濡れている。
 死んだも当然な人々が、
 土埃に塗れて欲を謳っている。

 歌舞伎町の人混みに、
 猫の死骸を置いていこう。
 トー横のベンチに、
 100円玉をばら撒こう。

 新宿は嫌な街だ。

 新宿は嫌な街だ。

 踏み入れる勇気は必要ない。
 淡いピンクに

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