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卯野有希路
2023年11月30日 06:13
緑地の道路にBMW、 曇天の下でエンジンが吠える。 モノクロームの空を舞う、 蝶々の虚像を置いていった。 助手席に座る私は、 窓の外を眺めた。 カーキ色の葉が哀しむ姿は、 スピード感と共に過ぎていく。 点々と建つ家々は、 人の気配を感じさせない。 生活はある筈だけど、 見えない壁で確認出来ない。 「私は何処に向かうのだろう」 私は静かに呟いた。 タイヤの回転する
2023年11月29日 19:27
家の鍵と少しの小銭、 メモ帳とボールペンを持って、 君と深夜のマクドナルドへ。 コーヒーとポテトを買い、 向かい合って席に座る。 ポテトを一本づつ食べる君は、 僕の愛しい人である。 店内BGMは海外のアーティストの、 洒落た曲を事務的に流す。 窓から見える夜の街は、 もう皆寝静まって光が少ない。 君は聞く。 「何をメモしているの?」 僕は答えた。 「この夜の記
2023年11月29日 10:47
目覚めてしまった。 淀んでいくと、 心の縁に水が垂れた。 目覚めてしまった。 誤ってしまって、 甘えで糸が切れた。 目を見て、どう? 目を見て、ほら、 二人の繋がりはある? 目を見て、どう? 目を見て、ねぇ、 軋む音は鳴っている? 目覚めてしまった。 転んじゃって、 陶器にひびが入った。 目覚めてしまった。 間違えてたから、 美しい鬱になった。 目を見て
2023年11月28日 17:41
炭酸ジュースの酸が抜ける度、 アイラブユーが聞こえてくる。 ポップコーンが床に落ちると、 辺りは一面火の海だ。 誰もいないミニシアターで、 仕事終わりの僕は映画を観ていた。 無名監督の知らない物語、 下手な演技が鼻につく。 金にもならない作品は、 熱意だけでも価値があった。 されど、深夜。 リクライニングシート。 GABAを含んだドリンクと錯覚して、 熱意だけでは
2023年11月27日 17:34
灰色の反射し、 音は静か。 消えない傷に染みる、 ナトリウムの溶液。 波に攫われたブーケは、 貝の粒が纏わり付いてしまった。 不揃いの流れ雲は無視し、 鳶の編隊は嘲笑っている。 波の行方は誰も知らない。 死んだ彼女の骨を撒いた、 あの記録さえも……。 波の行方は誰も知らない。 投げ捨てられた卒業証書も、 塵と化して飛んでいった。 何にも成れない足跡は、 もう皆に
2023年11月26日 13:23
縁側に座って日に当たり、 柔軟剤の香りを懐かしむ。 庭先で干された梅干しは、 深い皺を刻んでいる。 情けない鳩の鳴き声が聞こえて、 ここが郊外だと再確認する。 庭先に置かれた椅子は、 老いた男の特等席だった。 彼は毎晩のウヰスキーと、 孫の笑顔が好きだった。 ……けど、もういない。 陽射しの弱い午後、 青年は縁側に座る。 ある日の追想をしながら、 飾られたウヰス
2023年11月26日 01:04
ポッドキャストに耳を傾け、 夜風に紛れたセシルは笑う。 狐の目尻は星を見上げ、 白い肌は冷気を透す。 甘い香りの香水に、 タバコの苦みが混じって巣食う。 黒色に染まった日常、 セシルはそれでもめげなかった。 煙の中の輝きを探して、 暗闇に中を歩いている。 自分で蒔いた種なのに、 人のせいだと思うしか無かったのだ。
2023年11月25日 14:51
必然だったのかな? 私は君に恋をした。 喫茶店の日陰で本を読む君に、 私は釘付けだった。 文学的で哲学的で、 少し天文学的な関係が糸の様に絡まった。 美しい形をしたその絡まりに、 私は「恋」という言葉を利用した。 だけど、私は愛せない。 君と私は同じ色。 混ざってマーブル柄にも、 別の色にも成れない。 同じ色という事に、 私は酷く己を憎んだ。 だから私は遠くで眺
2023年11月25日 10:24
半径50メートル以内に手榴弾を投げて、 ポッカリと空いた穴たちに反吐を投げ捨てた。 薄気味悪い空気の中で、 見えない恐怖が粉塵に紛れる。 何も知らない幼子の様に怯えた眼を、 無機質な銃声たちが掻き消した。 戦争を反対する世の中に、 矛盾として残酷な戦争が起こる。 爆発だらけ、クレーターだらけ。 数多の死さえも平等に捨てられた。 そんな世の中に生まれた反吐が、 爆発の後
2023年11月25日 06:18
砂嵐から解き放たれた時、 僕達はそこに光を見出す。 焦げた食パンを口にして、 温かいスープで流し込むのは歓喜だ。 霧は黄色、 微睡みは常々。 白けた視界に声は届かず、 まだ夢心地の温もりを写した。 「朝だよ」 うら若き乙女の声に、 私はハッとする。 飛魚が跳ねる様に、 チープでピリッとした覚醒を身に覚えた。 ピアノの音が聴こえる。 自動車のエンジン音が聴こえる
2023年11月24日 22:42
人間は「人間」という檻に囚われている。 望んでもいないのに生命を与えられ、名前を付けられ、赤の他人に育てられながら人間となる。 私は、それに違和感を感じた。 それから数年も経つ。 私は私を望んでいなかった。 「私」という檻に囚われ、苦しい思いをしながら生命を擦り減らしている。 こういうパーソナリティに誰がしたのだ、と時偶に思うのである。 私は望んでしまっているのだ。「人間」
2023年11月24日 19:46
独りぼっちの闇の中、 街灯はポツリと輝いている。 羽虫は脊髄のままに飛んでいて、 感情を殺して浪費する。 スマートフォンのバッテリー残量も、 知識を投げ捨てて浪費する。 独りぼっちの闇の中、 街灯はポツリと輝いている。 冷たいベンチの座面の上、 黒い猫が欠伸した。 空腹を我慢してただ独り、 命を削って浪費する。 独りぼっちの闇の中。 街灯はポツリと輝いている。
2023年11月24日 17:49
風が吹く。 海が鳴く。 自動車が走れば火を吹いて、 夢を見たら静止する。 廃棄物の公共性に未来を見るか。 毒を含んで血を断つか。 戦闘機並の音波を背にして、 脳死当然の日々を過ごすか。 コンクリートの塔の下、 蟻の軍勢に現実は針の様。 この領域に愛は無い。 公共科学が巡っているだけだ。
2023年11月23日 21:43
新宿は嫌な街だ。 何処もかしこも人がいて、 ほんのり吐瀉物の匂いもする。 絶望と狂乱の淵に潜み、 アルコールとメディスンで濡れている。 死んだも当然な人々が、 土埃に塗れて欲を謳っている。 歌舞伎町の人混みに、 猫の死骸を置いていこう。 トー横のベンチに、 100円玉をばら撒こう。 新宿は嫌な街だ。 新宿は嫌な街だ。 踏み入れる勇気は必要ない。 淡いピンクに