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読みがえり

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読んだ本のレビュー(書評)をまとめています。雑多な書棚ですが、興味があればどうぞ!※注意🚨紹介している本を一度読んでから開くのをオススメします。限りなくネタバレに近いので笑笑
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2024年2月の記事一覧

書評:『口語訳 古事記 人代篇』三浦佑之

書評:『口語訳 古事記 人代篇』三浦佑之

①紹介

日本文学者の三浦佑之氏による『口語訳 古事記 人代篇』(文春文庫、2006年)を紹介します。『神代篇』の続きに当たる本書では歴代天皇の事績や英雄譚、そして骨肉の争いが展開され、神々さながらのドロドロぶり。神も人も根本は何も変わりませんね、本当に。


②考察

● 「同じ兄弟の中で、姿かたちが醜いというので大君の許から返されてしまったということが、周りの村里の者たちの噂になるのはとても

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書評:『ペスト』A.カミュ

書評:『ペスト』A.カミュ

①紹介

アルジェリアの作家アルベール・カミュによる『ペスト』(宮崎嶺雄訳、新潮文庫、2004年)を紹介します。コロナ禍の時には爆売れしましたよね!大量の鼠が死に、疫病の蔓延により世界から孤立した街で翻弄される人々の群像劇は、コロナ禍を経験した私たちにとって、もはや他人事とは言えないでしょう。


②考察

● 「肝要なことは自分の職務をよく果すことだ」
➢ 主人公リウーは当初、ペストを前にして

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書評:『人新世の「資本論」』斎藤幸平

書評:『人新世の「資本論」』斎藤幸平

①紹介

経済思想家・斎藤幸平氏による『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020年)を紹介します。昨年の時点で50万部を超えました!気候変動を食い止める鍵として氏が注目するのは、マルクスの『資本論』。冷笑と先入観を排した先にある、コミュニズムの真価へ。

②考察

・「コミュニズムは、無限の価値増殖を求めて地球を荒廃させる資本を打倒する。そして、地球全体を〈コモン〉として、みんなで管理しようとい

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書評:『職業としての政治』M.ヴェーバー

書評:『職業としての政治』M.ヴェーバー

①紹介

社会学者マックス・ヴェーバーによる『職業としての政治』(脇圭平訳、岩波文庫、1980年)を紹介します。第一次世界大戦に敗れたドイツで、ロマンティシズムに溺れる熱狂的な学生たちに向けてウェーバーが行なった講演。そこで語られたことは、彼らの酔いを覚ますのに十分な効果を発揮したと言えるでしょう。

②考察

・「政治にとって決定的な手段は暴力である」
→ヴェーバーの説に従えば、国家が政治を運営

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書評:『異邦人』A.カミュ

書評:『異邦人』A.カミュ

①紹介

かつてフランス領だったアルジェリア生まれの作家アルベール・カミュによる『異邦人』(窪田啓作訳、新潮文庫、1966年)を紹介します。「不条理」の体現とでも言えそうな主人公ムルソーの奇行と罪。彼のたどる末路は当然の帰結か、それとも「条理」への反逆か。この目で確かめてみましょう。


②考察

・「きょう、ママンが死んだ」
→いきなりの訃報から物語は始まる。しかし母の葬儀に際して、実の子ムル

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書評:『沈黙の春』R.カーソン

書評:『沈黙の春』R.カーソン

①紹介

アメリカの生物学者レイチェル・カーソンによる『沈黙の春』(青樹簗一訳、新潮文庫、2004年)を紹介します。言わずと知れた環境問題の古典。農薬DDTによる生態系の破壊が、やがて多くの化学物質を生み出した人類に跳ね返ってくることを告発する本書は、現代に蔓延る人間至上主義を見直すうえで欠かせない一冊でしょう。


②考察

・「自然界では、一つだけ離れて存在するものなどないのだ」
→人間も例

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書評:『口語訳 古事記 神代篇』三浦佑之

書評:『口語訳 古事記 神代篇』三浦佑之

①紹介

日本文学者の三浦佑之氏による『口語訳 古事記 神代篇』(文春文庫、2006年)を紹介します。日本という国はいかにして生まれたのか。造り主である神々のドロドロ展開。日本最古の歴史書に描かれた人代前夜の喜怒哀楽をご覧あれ。

②考察

・「このわが身の成り余っているところを、お前の成り合わないところに刺しふさいで、国土を生み成そうと思う。生むこと、いかに」
→兄妹であり同時に夫婦でもあったイ

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書評:『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ

書評:『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ

①紹介

ドイツの小説家ヘルマン・ヘッセによる『シッダールタ』(高橋健二訳、新潮文庫、1992年)を紹介します。主人公は歴史上のブッダ(仏教の開祖)ではなく、混迷の時代の中で己を探すために、ヘッセ自らが仮託して作り上げた架空の人物だと理解したうえで読むと分かりやすいかもしれません。

②考察

・「人は何も学びえないということをさえまだ学び終えていない!」
→バラモン(祭司)から沙門の道へ。シッダ

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書評:『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス

書評:『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス

①紹介

スペインの聖職者ラス・カサスによる『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(染田秀藤訳、岩波文庫、2013年)を紹介します。16世紀に始まった大航海時代のなか、中南米の地に足を踏み入れたスペイン人たち。しかし、キリスト教伝道を建前に彼らがそこで行なったのは果てしない殺戮と搾取でした。

②考察

・「神は、キリスト教徒がにわかに身を持ち崩し、人間としての感情を喪失し、そして、地獄落ちの

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書評:『職業としての学問』M.ウェーバー

書評:『職業としての学問』M.ウェーバー

①紹介

ドイツの社会学者マックス・ウェーバーによる『職業としての学問』(尾高邦雄訳、岩波文庫、1980年)を紹介します。学問で生計を立てるにはどうすれば良いのか。研究者というシビアかつハイリスクな冒険に挑むすべての人に、知の巨人が残酷な真実をぶつけます。

②考察

・「大学に職を奉ずるものの生活はすべて僥倖の支配下にある」
→たとえ志願者全員が相当の実力を持っていても、全員が研究職に就けるわけ

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書評:『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ

書評:『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ

①紹介

ドイツの作家ヘルマン・ヘッセの自伝的小説『車輪の下』(高橋健二訳、新潮文庫、1952年)を紹介します。成績優秀で周囲の期待を背負う少年ハンス・ギーベンラートの純粋な心を壊したのは、規格品作りのために生徒の個性を否定する学校という名の「車輪」でした。

②考察

・「魂をそこなうよりは、肉体を十ぺん滅ぼすことだ」
→地元の靴職人がハンスにかけた言葉。新しく町に赴任してきた牧師を靴職人は快く

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