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書評:『人新世の「資本論」』斎藤幸平

①紹介

経済思想家・斎藤幸平氏による『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020年)を紹介します。昨年の時点で50万部を超えました!気候変動を食い止める鍵として氏が注目するのは、マルクスの『資本論』。冷笑と先入観を排した先にある、コミュニズムの真価へ。

②考察

・「コミュニズムは、無限の価値増殖を求めて地球を荒廃させる資本を打倒する。そして、地球全体を〈コモン〉として、みんなで管理しようというのである」
→ここで言う〈コモン〉とは、市民が主体となって共有・管理する富のことだ。地球そのものをコモンと見なすのはもちろん容易ではない。ではその発想に至るにはどうすれば良いか。郷土愛を持てば、やがて地方→国→大陸→地球をコモンと見なせるのではないか。

・「『コミュニズムか、野蛮か』、選択肢は二つで単純だ!」
→民主主義体制を国家に委ねる時代は終わりに近いだろう。「難しくてわからない」を理由に私たち国民が上に任せすぎたから、今も腐敗政治が絶えないのかもしれない。変化を拒み、議論したがらない風潮が日本を閉塞社会たらしめる理由だとしたら。

・「コミュニティや社会運動がどんどん動けば、(略)持続可能で公正な社会に向けた跳躍がついに実現するだろう。(略)もちろん、この跳躍の着地点は、相互扶助と自治に基づいた脱成長コミュニズムである」
→昨今の日本社会にコミュニティと呼ばれるものはどれほど存在するのか。決して多くない共同体から主張を拡散させたいと思うならば、SNSの繋がりだけで満足せず、現実のそれも重要になろう。「社会」はコモンであり、市民は常にその主役という発想を持つには。

③総合

斎藤氏が終章で、人々が非暴力によって本気で社会を変えるのに必要とされる「三・五%」の数値を引用していて興味深かった。日本の場合、全人口1億人のうち少なくとも350万人が意志を持って立ち上がれば、社会に変革をもたらすことができる。そのためにはまず、常識を疑う力と人員を持つことから始めなければならない。決して容易ではなく、ライフワークにすらなり得る闘争だが、まずは共有から。アクションもまたコモンである。

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