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書評:『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス

①紹介

スペインの聖職者ラス・カサスによる『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(染田秀藤訳、岩波文庫、2013年)を紹介します。16世紀に始まった大航海時代のなか、中南米の地に足を踏み入れたスペイン人たち。しかし、キリスト教伝道を建前に彼らがそこで行なったのは果てしない殺戮と搾取でした。

②考察

・「神は、キリスト教徒がにわかに身を持ち崩し、人間としての感情を喪失し、そして、地獄落ちの裁きを受けるに至る道を整えられたのである」
→ラス・カサスから見れば、同胞のスペイン人はキリスト教徒を自称する無法者(ティラーノ)に過ぎなかった。現地で産出される金銀宝石にしか興味を示さず、息を吸うようにインディオを殺す。その様はもはや犯罪の域を超えて、悪魔だ。

・「『今は、もう二度と家に帰ることも妻子の顔を見ることも叶わず、こうして旅に出るのだ。死地に赴くしかないのだ』と」
→インディオの多くは自分たちの人間性を無視され次々と殺されていったが、中には直接の死には至らずとも重労働を課せられて心身を壊した者も少なくない。上の言葉はあるインディオが放ったもので、生と死のどちらも受け入れられないほどに当時の状況がいかに凄惨で非道に満ちたものかを今に伝えている。

・「その損失は、もし神の奇跡により、無法者たちに殺された何百万もの人びとの生命が甦らなければ、今後世が果てるまで、取り戻せる望みは皆無である」
→インディオ殺害を正当化したのは、降伏勧告状(レクリミエント)なる通達だ。それは「スペイン国王に従わなければ死ね」と言うようなもので、告発のために多くの敵を作らざるを得なかったラス・カサスにとっては堪えられぬものであったに違いない。

③総合

残念ながらこの黒歴史は、19世紀末から現在に至るまで、グローバル資本主義という形で繰り返されている。開拓や帝国主義は過去のものではない。アフリカのコンゴでは今も、スマホに内蔵されているレアメタル採掘のために現地の子供たちが働かされ、環境破壊が懸念されている。未開地へのキリスト教伝道という建前は、藤原正彦氏の言葉を借りれば「論理」(『国家の品格』、新潮新書、2005年)であり、日本の大東亜共栄圏と同じく、支配を正当化する言い訳でしかない。

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