もつ

創作 時々 吐露

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記事一覧

【エッセイ】声にもならない声で泣く

 以前のエッセイでも書いたことだが、俺は地元に帰省するたびに祖父と喫茶店に行く。コーヒーと、俺は時々ケーキを頼んで、2時間ほどの談笑をする。この前の冬の帰省でも…

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3か月前
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【エッセイ】タバコミュニケーション

 俗に「タバコミュニケーション」と呼ばれるものは、喫煙所で普段はしないような話をしたり、もしくは、大勢のいる場では聞けないような貴重な話、面白い話を聞けたりするも…

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5か月前
3

【独白】無責任な幸せ者

 努力ができる、というのは才能だ。 才能の無いものがする努力など、何も特別なものではない。持たざる者は、持たざる者のままで何も変われない。  持たざる者はこの世…

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5か月前

【自己紹介】×フィクション²

 自動販売機で飲み物を買う時は、金額の小さい小銭から投入する。例えば180円のコカコーラを買うとして、10円玉を3枚、50円玉を1枚、最後に100円玉を入れる。そうすると全…

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7か月前
3

【エッセイ】いつか訪れるのだろうか、「幸福」の話

 福岡から大分に帰省するのは大抵、夏休みと春休みにそれぞれ2週間程度。高速バスで2時間30分ほどなので、週末や少しの連休にも帰ることは可能だが、だからといって大分に…

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10か月前
8

【短編】病魔は目睫の間に潜む①

パズル  私がこの病を発症したのは、中学校に入学して間も無くの頃であったと思います。当時の私は、入学式で男子生徒、女子生徒それぞれが全く同じ制服を着ていることに…

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10か月前
3

【詩】自由に書いた、12回だ

――― 1, 変わらないでいて、君へ ――― 君に嫌いな食べものがあるなら 僕も食べないでいるから 君の聴かない音楽なら 僕は聴くのを止めるから 変わらないでいて、変わ…

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1年前
6

【独白】心の中

「こわいよ」 「こわくないよ」 「そうかな、でもやっぱりこわいよ」 「なにがこわいの」 「冬の曇り空がこわいよ」 「どこがこわいの」 「寂しい地面を押し潰しそうな重たい雲が…

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1年前
1

【短編】記憶虫

やぁ新入り、おまえはつい先日成虫になったばかりだから、俺たち“記憶虫”の生き方について教えてやるよ。俺たち“記憶虫”は、人間の記憶をちょいと頂いて巣に持って帰る…

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1年前
3

【短編】蝋燭

Ⅰ 僕は、早起きのために生じた眠気と倦怠感とを頭の中に渦巻かせながら、今日も開店作業をしていた。この時間には辛いものがあるが、ケーキ屋をするという夢を叶えた充足…

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2年前
4

20年早く星になる親

大分に帰省していた時に、地元の友人とカラオケに行った。そのうちの1人と喫煙所に行った際、お互い酔っていたこともあり、熱い話をした。(そして酔っていたこともあり内容…

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2年前
9

【エッセイ】記憶にない、いじめの話

「なんだかんだ上手くいく」「なんとかなる」っていうのは、俺の人生のモットーというかなんというか、座右の銘とは違うんだけど、とにかくそういうのを自覚している。 先…

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2年前
9

【短編】宇宙

「どうしたの、急に呼び出して。」 カウンターに座りながらギムレットを頼む彼に、私は尋ねた。多少察している部分もあったが。 「大事な話があるんだ。」 彼がそう言い…

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2年前
6

【エッセイ】声にもならない声で泣く

 以前のエッセイでも書いたことだが、俺は地元に帰省するたびに祖父と喫茶店に行く。コーヒーと、俺は時々ケーキを頼んで、2時間ほどの談笑をする。この前の冬の帰省でも、もれなくそうだった。
 いつもは祖父が俺を迎えに来てくれて、そのまま喫茶店へ向かうのだが、その日は少し違って、喫茶店に行く前にまず昼食を一緒にとった。最近開店したばかりのうどんチェーン店で、べつに特別なお店ではなくて、ただ、「祖父と外食を

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【エッセイ】タバコミュニケーション

 俗に「タバコミュニケーション」と呼ばれるものは、喫煙所で普段はしないような話をしたり、もしくは、大勢のいる場では聞けないような貴重な話、面白い話を聞けたりするもので、喫煙者がタバコを吸う言い訳になっているような節もあるのだが、これは少なからず俺の身の回りには存在している。そしてこのタバコミュニケーションに、俺は救われた。

 初めに断っておく必要があるが、タバコミュニケーションが「喫煙者がタバコ

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【独白】無責任な幸せ者

 努力ができる、というのは才能だ。
才能の無いものがする努力など、何も特別なものではない。持たざる者は、持たざる者のままで何も変われない。

 持たざる者はこの世界のマジョリティで、俺もお前も、その1人に過ぎない。何も理解することができない、凡人中の凡人。俺たちには何もできやしないだろう?

 朝は一日の始まりを呪いながら起床し、昼は仕事か、学業か、どうせ何も考えずに無為な時間を過ごし、夜は明日を

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【自己紹介】×フィクション²

【自己紹介】×フィクション²

 自動販売機で飲み物を買う時は、金額の小さい小銭から投入する。例えば180円のコカコーラを買うとして、10円玉を3枚、50円玉を1枚、最後に100円玉を入れる。そうすると全てのボタンが一度にパッと光る。それがなんだと言われたら
「別に、ただそうしたいだけ」

 マクドナルドでハンバーガーとポテトとジュースのセット、だいたいクーポンを使って注文する。まず食べるのはポテト。完食してからハンバーガーを手

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【エッセイ】いつか訪れるのだろうか、「幸福」の話

【エッセイ】いつか訪れるのだろうか、「幸福」の話

 福岡から大分に帰省するのは大抵、夏休みと春休みにそれぞれ2週間程度。高速バスで2時間30分ほどなので、週末や少しの連休にも帰ることは可能だが、だからといって大分に2、3日いても特にすることはないため、そういった「プチ帰省」のようなものはしたことが無かった。それで今回は、3度目の夏の帰省中。その際に祖父と喫茶店に行った時の話をする。

 その喫茶店には、帰省する度に祖父と一緒に珈琲を飲みに行く。夏

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【短編】病魔は目睫の間に潜む①

パズル

 私がこの病を発症したのは、中学校に入学して間も無くの頃であったと思います。当時の私は、入学式で男子生徒、女子生徒それぞれが全く同じ制服を着ていることに非常に感動したことを覚えています。というのも私が通っていた小学校では、児童はみんな思い思いの自由な服を着て登校していたので、全く見た目が様々でした。今思えば小学生の私は、そのことになにか違和感を抱いていたのかもしれません。そのため中学生と

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【詩】自由に書いた、12回だ

――― 1, 変わらないでいて、君へ ―――

君に嫌いな食べものがあるなら
僕も食べないでいるから
君の聴かない音楽なら
僕は聴くのを止めるから
変わらないでいて、変わらないでいて

君はカフェで寛ぐことが好きだから
僕もカフェに行こうと思う
君が本を読むことが苦手なら
僕はもう、好きな本を勧めたりしないよ
僕が君のために変わるから、変わらないでいて

君のために変われるから
君と不釣り合いな

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【独白】心の中

「こわいよ」

「こわくないよ」

「そうかな、でもやっぱりこわいよ」

「なにがこわいの」

「冬の曇り空がこわいよ」

「どこがこわいの」

「寂しい地面を押し潰しそうな重たい雲が、空がこわいよ。自分はちっぽけだって思うんだ」

「こわくないよ。だってみんなちっぽけだもの。独りじゃ何もできなくて、いなくなる時は一瞬で、それでも必死に生きてるの。みんなちっぽけだもの。みんな一緒なら、こわくないで

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【短編】記憶虫

やぁ新入り、おまえはつい先日成虫になったばかりだから、俺たち“記憶虫”の生き方について教えてやるよ。俺たち“記憶虫”は、人間の記憶をちょいと頂いて巣に持って帰るのさ。奴らの記憶をエサに繁栄していく、そういうわけだな。ただし、人間の記憶を頂く上で気を付けなくちゃいけねぇことが2つある。
1つ、記憶を奪っていいのは“頑張っていない人間”からだ。だらだら怠けている奴らっていうのは、記憶の1つや2つ失っ

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【短編】蝋燭



僕は、早起きのために生じた眠気と倦怠感とを頭の中に渦巻かせながら、今日も開店作業をしていた。この時間には辛いものがあるが、ケーキ屋をするという夢を叶えた充足感はまだ、僕を働かせる原動力として機能しているようだ。

街角にぽつんと建った僕の小さな夢は、お昼前の、太陽によって空気が程よく温められる時間帯に開店する。嬉しいことに近所ではなかなかの評判で、店を閉める頃には殆どのケーキが完売している。

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20年早く星になる親

大分に帰省していた時に、地元の友人とカラオケに行った。そのうちの1人と喫煙所に行った際、お互い酔っていたこともあり、熱い話をした。(そして酔っていたこともあり内容はほぼ覚えていない。)
煙草を吸い終える頃にそいつが、「お前らには早くに死んで欲しくないなぁ。自殺とかするなよ。」と言っていたことは覚えていて、俺も「それはこっちのセリフよ〜。」とか言った。友人とお互いの死について話すなんて、まだ20だが

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【エッセイ】記憶にない、いじめの話

「なんだかんだ上手くいく」「なんとかなる」っていうのは、俺の人生のモットーというかなんというか、座右の銘とは違うんだけど、とにかくそういうのを自覚している。

先日の鍵の件も、心の中で「なんとかなるだろう。」と思っていたからあんまり焦ってなかった。(周りの人からはめっちゃ怒られたけど。)

他に、買い物してスーパーに財布を忘れた時も保管してもらえてたし、浪人にしても実力は届いてなかったけど総合型選

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【短編】宇宙

「どうしたの、急に呼び出して。」

カウンターに座りながらギムレットを頼む彼に、私は尋ねた。多少察している部分もあったが。

「大事な話があるんだ。」

彼がそう言いながらこちらを見る。あぁ、やっぱり。私の胸は大きく波打ちだした。

彼は私のことが好きだ。いや、正確には彼の想いを推察した私の思い込みに過ぎないかもしれないが。ただ一緒にいる時間が積み重なるにつれ、彼の言動に、私に対する愛を感じること

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